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唐木英明氏講演会 「食の安全と日本人-ゼロリスク幻想(安心)からの脱却-」
を開催しました。

 2014年11月1日(土)午後2時より高新文化ホールにて「食の安全と日本人-ゼロリスク幻想(安心)からの脱却-」と題して倉敷芸術科学大学学長顧問、食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授であられる唐木英明氏による公開講座(健康栄養学部と健康長寿センターとの共催、後援:全国栄養士養成施設協会)が開催されました。天候の悪い中、一般県民、行政関係者、教職員、学生など114名もの方にお集まり頂きました。

 ご講演に先立ち、主催側の健康栄養学部長からの公開講座の趣旨説明や司会者からの講師紹介がありました。すなわち、日本人は安全管理に関して数々の失敗をしてきた、(例として、水俣病発生後の対策の遅れによる被害拡大の事例や病原性大腸菌O-157による集団食中毒後、学校給食では生野菜提供が原則禁止とされてしまったこと等)、その原因は疫学データに基づいてリスクを定量的に捉えるのが苦手であるためではないか、一般市民もあり得ない「絶対安全」を求める、その結果行政側は極端な規制を行う、食の提供側も絶対安全と言う、一般市民はそれらを鵜呑みにして思考停止し「安心」してしまう、そうではなく一般市民も科学的根拠のあるデータを読み込み主体的にリスクと向き合う姿勢こそが大切ではないか、との説明がありました。唐木先生を招いたのは、これまで長年にわたり内閣府食品安全委員会専門委員を務められ、消費者教育にも携わってこられた方であるからとの説明がありました。また例えばBSEのリスクが十分に低下したにもかかわらず「安心」のため膨大な税金を使って続けられてきた国産牛の「全頭検査」の問題点を、食品安全委員会や国会で指摘して下さったとの紹介もありました。

 ご講演では、農薬や添加物などの化学物質に対する誤解などについて、残留農薬や食品添加物、遺伝子組み換え食品など、消費者が抱く食への不安やリスク認知の解明などについてスクリーンと配付資料を用いながらわかりやすくお話し頂き、参加者の皆さんは、普段なかなかお聞きする機会のない貴重なお話を熱心に聞き入っていました。

 講演終了後の20-30分ほど活発な質疑応答が交わされ、複数の大学教員(当学以外の教授2名含む)からも専門性の高い質問が出されました。閾値についての質問に対し、化学物質の細胞表面の受容体への結合は一定以上の濃度が必要である、との説明があり、基礎研究者として世界で活躍され、論文の被引用数の多さで賞を取られた先生の見識の広さに感服しました。

 4時半の講演会終了後、唐木先生のところに個人的に感想や感謝の意を伝えに来られた方々が複数おられ、一般の方々にとっても満足度の高いご講演であった証と考えています。

 アンケートには、「大変参考になった」「分かりやすい講演でした」「興味深い内容でした」と多くの方々から高い評価を得ました。また、意見・感想として、「食品の安全には科学的知見を持った考え方が必要であり、マスメディアから流れる食に関する情報に流されず、その情報が正しいか見極める事が大切だと感じました」また、「身の回りの膨大な情報が本当に正しいのか、自分で判断する力を養う重要性を感じました」など、聴講された方々は食の安全に対する関心が深まった様子でした。「このような内容はもっと広く周知し、多くの市民に聞いてもらうべきであった」とのお叱りまでいただきました。学生の感想としては、「報道等から中国の輸入食品は他国や国産と比べて危険だと思っていたが、違反率から見るとそうでもないことが分かった」、「餃子への農薬混入は悪意のある犯罪であり、メーカーが取り組む通常の食品安全とは別の問題であることが分かった」、「食品添加物は管理可能だが、微生物はコントロールが難しいことが分かった」という内容が多くあり、学内で習うことを発展させていただき、理解を深めていただいたと思います。

 
ご参加いただいた方々をはじめ、周知にご協力いただいた行政機関、報道機関、消費者団体、市民団体、後援の全国栄養士養成施設協会、関係の方々に深謝申し上げます。この講演会を契機に一般県民の「科学的根拠とは何か、リスクをどう捉えるか」への理解がさらに深まることを願っています。


唐木英明氏の講演の様子
参加者からの質問の様子

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