15. 現代物理学と現代の自然観

15-1. 標準理論

以前、「古典物理学の全体系(世界を記述する方程式)」を紹介しましましたが、その後相対論や量子力学が発見され、さらにこの世の中には4つの力があることが分かり、その性質も探求され... 現在は「標準理論」という形にまとめられています。

量子力学や量子電磁力学に、さらに弱い力や強い力の法則をまとめた「標準理論」では、「強い力(クォークを結ぶつける力)」「弱い力(中性子を陽子と電子に変える力)」「電磁力」の法則が、まとまった形(1つの数式)で

と書かれます(しばしば「神の数式」とも呼ばれます)。 現在では、この「標準理論」と、重力の法則(一般相対性理論)で、世界が記述されると(とりあえず)考えています。

しかし... まだ、重力(一般相対論)と、それ以外の3つの力の扱い方(量子論に基づく標準理論)が統一的ではありませんし、標準理論と合わない実験結果もいくつか観測されています。そこで、「標準理論を超えた探求」や、「重力」と(量子現象が関わる)それ以外の3つの力を統一的に扱うこと(統一理論の構築)なども、試みられている最中です。


15-2. 宇宙論

一般相対性理論の発見により「時間空間自体」を、物体のように探求することが可能になり、「ブラックホール(重力が強すぎて、光さえも脱出できなくなる時空の穴(特異点))」の存在等も分かり、我々の宇宙(この世)の誕生や進化(時間的変化)も探求可能になりました。また、天体の観測技術も上がり、天体までの距離や視線方向の移動速度を検出する方法も生みだされ、「星や銀河が、地球からの距離に比例した速度で遠ざかっている」ことが分かり、「宇宙が膨張している」ことも分かります(ハッブルの法則)。観測される膨張速度から逆算して時間をさかのぼると、昔(約137億年前)は宇宙は「1点から始まった」ことになり、宇宙(=この世)は「大爆発(Big Bang)」によって生まれたことになります。そして、137億光年(光が137億年掛かって進む距離)の彼方から地球に到着した光や電磁波は、約137億年前、つまり宇宙が生まれたころに発せられた光で、宇宙が生まれた頃の情報を持っていると考えられます。

それらの解析から、約137億年前、宇宙は非常に小さな「点」みたいなものから始まり、そこに宇宙の全エネルギーが集約されているのですから、とてつもなく高いエネルギー密度の状態であり、電磁力、弱い力、強い力は高エネルギーでは混然一体として区別がつかない状態であり、エネルギー密度が低くなるに従い、3つの力は分離して、現在の物理法則(標準理論の世界)になったと考えられています。現在の物理法則(標準理論の世界)が生まれた頃は、物質(クォーク)と相互作用(グルーオンや電磁場(=光))が、まだ混然一体としており(クォーク・グルーオン プラズマ状態)、さらに宇宙が膨張してエネルギー密度が低くなると「物質(陽子など、クォークの塊)」と「輻射(光など)」が分離し、物質(陽子など)が生まれ、陽子と電子が電磁力で結合して「水素原子」が生まれます。

このようにして生まれた「物質(水素原子)」は、重力で引き合い、集まって星雲や星を作り、同時に、星が集まって銀河を作ります。沢山の水素原子が重力で引き合って集まった「星」の内部では、(太陽の中心部と同じような)核融合反応が起き、ヘリウム原子、そして、ヘリウム原子が核融合反応を起こして、炭素原子や酸素原子などが生まれていきます。

このようにして、水素原子が全てヘリウム原子に変化すると、「緩やかな核融合反応」が終わり、一気に星は崩壊して(潰れて)いきます。その瞬間、ヘリウムや炭素、酸素などはさらに核融合反応を起こし、鉄までの元素が全て生まれます。そして、その激しい核融合反応により、星は一気に大爆発を起こします(超新星爆発)。この瞬間、星の中心部では、瞬間的にさらに密度が高い状態になり、鉄以上の原子番号を持つ元素が、一気に生まれます。そして、超新星爆発により生まれた様々な元素は、宇宙に塵となってばらまかれます。それが再び重力により集まると... (水素とヘリウムだけでない)様々な元素を有する星が生まれます。なお、地球には様々な元素が存在しますから(だから様々な物質や、様々な生物や、人間がいます)、宇宙が出来てから、何回か、星の誕生と超新星爆発による崩壊と経て、その塵が集まって、生まれたものと考えられます。

ところで、この宇宙にはどのくらいの「物質」があるのでしょう?物質があつまると、エネルギー密度が高くなり、温度が上昇しますから、光(電磁波)を出します。それを観測すれば、何処にどのくらいの物質があるか推定できそうです。そうやって、例えばある銀河に属する星を、全て観測していきます。ところで、星は銀河中心を中心として「公転運動」をしていますから、その公転半径や公転速度が測定できれば、(ケプラーの第3法則を利用して)「銀河の質量」を推定することができます。そういうことが出来るようになったのは、観測技術が発展した最近ですが、光や電磁波から推定される(星の全質量)と「銀河の質量」に、数倍以上の違いがあることが分かってきました。また、コンピュータの発展に伴って「沢山の物質(星)が、重力で集まった時に、どのような運動をするか」が具体的に計算できるようになり、計算してみると... 「観測される銀河の形にならない」ことも、明らかになってきました。観測される銀河の形になるためには、「中心部に、(巨大な重力を生み出す)巨大な質量が必要」になり、これは同時に、銀河の公転周期の観測から期待される質量と同じ程度になります。光や電磁波では観測されない、しかし「重力を生み出す基」なので「質量を持つ物質」が、宇宙には大量にあるはず、ということになります。これを「ダークマター(暗黒物質)」と呼んでいますが、まだその正体が分かっていません。しかし、「見える物質(光や電磁波を発する物質)」の5倍程度の「ダークマター(見えないが、重力は発生させている物質)」が存在していることが、分かってきています。

なお、宇宙の膨張速度は一定でなく「次第に膨張が加速している」ことも分かってきます。これは「遠方(=昔)の天体」から求める宇宙の膨張速度と「比較的近距離(最近の)天体」の観測から求める宇宙の膨張速度を比較することから、見出されました。物質には質量があり、互いに引力(重力)で引かれていますから、本来は膨張は次第に「遅くなる」あるいは「測定精度の範囲内で変化しない」はずです。たとえて言うなら、上に投げたボールは必ず速度が遅くなり、落下するはずです。ところが、宇宙の膨張が増加しているということは、投げたボールがどんどん速度を上げて上昇していくようなことです。これは何か他から「エネルギー」を与えなければ、起こりえないことです。そこで物理学者は、この「宇宙の膨張を加速している、未知のエネルギー」を「ダーク・エネルギー」と呼び、その正体を探り始めています。なお、このような観測結果に基づき、宇宙全体のエネルギー(質量)は、約70%がダークエネルギー、約25%がダークマター、そして残りの5%が、原子や分子など我々が普通に「物質」と呼んでいる存在であろうと推定されています。

つまり、我々が知っている「(通常の)物質の世界」は、宇宙全体のまだ5%程度でしかない、ということです。


15-3. 現代物理学と現代の自然観

では、最後に、「現在の物理学」の話題をいくつか紹介します。


【なぜこの世の中には「物質」があるのか?】

対生成と対消滅を知らなければ、この疑問は生まれないでしょう。物質があるのは「あたりまえ」と思うかもしれませんね。しかし、「無(真空)から対生成により、物質と反物質が生まれる」という法則を知ると、それなら、物質と反物質は同量になるのではないか?そしてそれが出会えば無(真空)に戻るのでは? なのになぜ我々の世界は「物質優位(反物質がほとんど無い)」なのか?という疑問が生まれます。

生まれた物質と反物質がそのまま対消滅するだけなら、物質は残りません。物質や反物質を構成する源である「素粒子」は、様々な反応を行い、別の素粒子に変化していきます。反応に関与する力は、主に「強い力」「弱い力」「電磁力」です。(重力は、これら3つの力にくらべ弱いためにあまり寄与しないと考えられています)。そのうち、中性子が陽子に変わるときに働く力「弱い力」がちょっと奇妙な性質を持っていて、「電荷の反転=物質・反物質の変換(C)」「パリティの反転=鏡に映す変換(P)」を合わせた変換CPに対して「わずかに(百万分の1くらいの確率で)法則が変化する」ことが知られています。すると、「物質」に対する変化と「反物質」に対する変化が変わり対称性の破れと呼ばれています)殆どの物質と反物質は消えていくのに、ごくわずかな確率で「対応するものが無く消えることができない」ものがわずかに残ります。殆どの物質反物質が対消滅した後、わずかな対称性の破れにより残ったものが、現在われわれが「物質」と呼んでいると考えられています。しかし、実験で知られている対称性の破れだけでは、現実の宇宙にある物質量は説明できません(対称性のやぶれが小さすぎて、これだけ大量の物質が残りません)。今なお「なぜこの世に物質があるのか?」の疑問は、まだ解決していません。


【なぜ現実は1通りに決まるのか?】

これは「量子力学」の理論から生まれる疑問です。量子力学では1つの量子の運動は「波動関数」で表されます。波動関数は「そこに量子が見つかる確率」と関係しています。例えばダブルスリットの実験っでは、1つの量子は、波動として2つのスリットを同時に通過し、確率の干渉縞をつくります。それを何度も行えば、確率に従った個数分布が得られます。では量子を検出するまでは、量子は何処に居るのでしょう? 量子は「検出するまでは、確率の波動として1つの場所に局在しているわけではない(どちらか片方のスリットを通過しているのではない)」のです(もし、どちらか片方を通過しているのなら干渉縞はできません)。なら、「可能性として、いろいろな場所に分布している波動関数」から「ここに来た、と、1通りに観測される事実」は、どう整合性がとれるのでしょうか? これは「観測の問題」と呼ばれています。興味のある方は「シュレディンガーの猫」で検索してみてください。

観測するというのは、測定器という「自然界に存在するもの」と観測対象の相互作用ですから、その仕組みは「量子力学で記述できるはず」のものです。しかし、量子力学で計算をすればいつまでたっても「波動関数」や「確率分布」は得られますが、「1つの事実」はそこからは出てきません。つまり量子力学の範囲内では、いつまでたっても「確率」だけで「1通りの現実」が出てこないのです。なぜ現実は1通りであるのか?(生きていると同時に死んでいるということが起こらないのか?)、いまだによくわかりません。1つの理論として、可能性として未来は無限の可能性に分割しており、ある時点での可能性であった事象を現実と位置付けると、過去が1通りに決まる、という理論はあります(エベレットの多世界解釈)。その後SF等のパラレルワールドの元ネタになっていますが、実証できる話ではないため、いまだによくわからないことです。


【なぜ時間は過去から未来へすすむのか?】

なぜエントロピーが「未来へ向かって」増大するのか?という問題です。言い換えるとなぜ時間は過去から未来へ進むのか? という問題と同じです。いまだに未解決です。


....

まだまだたくさんありますが、話が長くなりますので、2017年の、日本物理学会誌の付録を紹介して、終わりにします。
物理学70の不思議
専門的な話が多いのですが、中には皆さんも「へぇ... こんなことが分かっていない(というか、探求可能になりつつある)のか...」と、思うようなものもあるように思います。



【まとめ】

現在では近代に比べ「様々なことが、精密に」理解できるようになりました。でも、分かればわかるほど、「分からない」ことが明確になります。昔は「あたりまえ」と思われていたことが、全然あたりまえでなく、それがこの世界の大いなる謎であることが、どんどん見えてきた、と言っても良いと思います。

そのような理解に到達したのは、ニュートンの時代から始まった「世界全体を統一的に理解してやろう(基本法則を見つけ、基本法則に基づいて全てを理解してやろう)」という野心的な試みの結果と言っても過言ではありません。20世紀初頭に「量子力学」が発見されるまでは、統一的な理解へ一直線のように思われていました。

18世紀、「ニュートンの運動法則+万有引力」で天体現象が全て記述でき「神は必要ない」とナポレオンに言ったラプラス。その後電磁法則が明らかになり、「ニュートンの運動法則+万有引力+電磁法則(マックスウェル方程式)」が「解が1通りに決まる方程式群」になることから「基本法則で世界(未来)が決まる」という世界観が発展し「ラプラスの魔物」と言われる世界観が、いよいよ現実的になります。ニュートンの運動法則と電磁法則の時空変換性の違いは、相対性理論という形で統一され、「相対論的運動法則+一般相対性理論(万有引力)+電磁法則」で、矛盾の無い「解が1通りに決まる方程式群」が完成します。この完成された体系を現在では「古典物理学」と呼んでいます。また、熱現象などは「分子運動(統計力学)」という形で位置付けられ、20世紀初頭「ほぼ完全に世界を記述する基本法則を見つけた」と思うような状況になりました。ほんのいくつかの、光や原子などの問題を除いて。

そのほんのいくつかの問題が「量子」という概念を生み出し、それにより古典物理学は全面的に書き換えられました。その後およそ70年かけて、21世紀の現在までに明らかになった基本法則は「標準理論」と「一般相対性理論」という形にまとめられています。しかし、標準理論で終わっているわけでもなく、「標準理論では説明がつかない現象」もいくつも見つかっています。また、基本法則に基づき、様々な現象を理解することも、まだまだ謎だらけです。

人類は数千年の時間をかけて文明を進めてきましたが、自然界の仕組みの解明には、まだまだ時間が必要なようで、また分かればわかるほど、我々は、まだ何も知らない、ということを実感します。


では、これで「物理と自然法則」の話を終えたいと思います。