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多剤耐性アシネトバクター感染とNDM-1産生多剤耐性大腸菌感染の国内発生について
多剤耐性アシネトバクターとは アシネトバクターは、グラム陰性桿菌に分類される細菌で、土壌、水(風呂、花瓶)、動物の排泄物、人間の皮膚などいろいろな場所に分布しています。健康な人には影響を与えませんが、免疫力が低下した人に感染すると、肺炎や敗血症などの日和見感染を起こす細菌です。2008年に国内初の発生が大学病院でみられ、最近では、有効な抗菌薬が非常に少ない超多剤耐性菌による集団感染(院内感染)や死亡が問題になっています。これまで効くとされてきたカルパベネム系やキノロン系の抗菌薬が効かないような遺伝子を持ったアシネトバクターが出てきたため、薬物療法が難しいのが問題です。 病院内でアシネトバクター感染が起こりやすい場面 外科手術、創傷、感染歴、広域スペクトル抗生物質による治療、非経口的栄養法、留置器具(カテーテル)、気管切開創、気管内挿管、機械的人工換気(人工呼吸器)、集中治療室 多剤耐性アシネトバクター拡大を防ぐために 病院環境では、多剤耐性アシネトバクターが医療従事者や患者に簡単に定着してしまうため、院内感染対策が重要です。接触感染への予防策として、手洗いが最も重要です。呼吸器感染症を起こしている患者が発生した場合は、飛沫感染対策としてマスクの着用や個室隔離対策も考慮する必要があります。人工呼吸器などの医療器具の適切な管理も重要です。アシネトバクターは、70%エタノールや50%以上の濃度のイソプロピルアルコールなどのアルコール系消毒薬によって死滅します。病院などの免疫力が低下した人のいる場所で実習する学生は、自分が媒介者にならないように予防を心がけましょう。 NDM-1産生多剤耐性大腸菌とは NDM-1はニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ1のことを言います。NDM-1を持っている細菌は、カルパベネムなどのβ-ラクタム系抗菌薬や、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系など多くの抗菌薬が効きません。大腸菌は普通にわれわれの腸の中に住んでいる細菌なので、NDM-1を持った大腸菌が健康な人の腸管粘膜や体表面に付着しているだけでは、原則的に無害です。しかし、院内感染症、術後感染症、尿路感染症などを引き起こす新型の多剤耐性菌として市中に広がることが懸念されています。NDM-1を持った大腸菌からNDM-1遺伝子が別の細菌に取り込まれると、ほとんどの抗菌薬が効かない細菌ができてしまいます。NDM-1遺伝子を持つ肺炎桿菌も見つかっています。 NDM-1産生多剤耐性大腸菌の拡がり NDM-1を産生する多剤耐性大腸菌は、パキスタンやインドの医療施設で治療を受けた経歴のある患者が、欧米諸国で発見されたものが大半です。2010年9月に報道された国内での初の感染例もインドから帰国後に入院した患者でした。海外への医療ツーリズムが原因の1つですが、休暇中に海外旅行をする学生もNDM-1産生多剤耐性大腸菌感染に気を付けましょう。主な症状として、膿瘍、尿路感染症、肺炎、敗血症が報告されています。 超多剤耐性結核について 結核菌に有効とされる薬のうち、第一選択薬であるイソニアジドとリファンピシンに加えて、補助的な第二選択薬(6種類)のうち、3種類以上に対して耐性がある結核菌を超多剤耐性結核といいます。WHOによると、世界の結核患者の2%、東欧やアジアの一部では15%以上が超多剤耐性菌に感染しているということです。日本では年間に約70名の超多剤耐性結核患者が発生していると推計されています。結核を侮ってはいけません。年間約3万人が新規患者として登録され、約2,300人が命を落とすという、わが国最大の感染症です。咳や微熱が2週間以上続く場合は、医療機関を受診するようにしてください。 耐性菌を減らすために 抗菌薬の濫用が耐性菌の蔓延を助長します。耐性菌を減らすためには、安易に広域スペクトラムの抗菌薬を用いないことです。院内感染症対策チームが使用抗菌薬の種類や量をモニターして、医師に対して不用意な抗菌薬の使用を制限している病院もあります。みなさんが医療機関を受診したとき、適切な抗菌薬の処方を受けていますか? みなさんは処方された抗菌薬の種類や効果を知っていますか? 病院は病原体の多いところ 病院には感染症の患者さんがたくさん入院しています。抗菌薬を使用する場所ですので、他の場所に比べて抗菌薬に耐性の細菌が多いと考えられます。実習のあとで病院から自宅に細菌を持ち帰らないようにしましょう。また、大人が小さい子供や赤ちゃんなどを病院へ連れて行くのを見かけたら、止めるように注意しましょう。子供がウイルスなどを病院へ持ち込んでも困りますし、子供が病院の廊下から病原体を持ちかえっても困ります。
多剤耐性アシネトバクター感染と
NDM-1産生多剤耐性大腸菌感染の国内発生について