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「災害看護学専攻 開講式」


Disaster Nursing Global Leader Degree Program(DNGL)

共同災害看護学専攻 開講式


高知県立大学、兵庫県立大学、千葉大学、東京医科歯科大学、日本赤十字看護大学で構成される大学院博士課程共同災害看護学専攻の開講式が、2014年4月5日(土)の午後1時30分から高知県立大学池キャンパスの共用棟大講義室で行われた。入学生は、5つの大学からの11名であった。

開式は、入学生の呼名から始まり、責任大学学長である南裕子高知県立大学学長の式辞の後、高知県知事の祝辞の代読(岩城孝章高知県副知事)、WHO神戸センターのアレックス・ロス所長、日本看護系大学協議会の片田範子会長からの祝辞があり、続いてDNGLの開講までを支えてくださった文部科学省大臣官房総務課法令審議室の松坂浩史室長、
DNGLプログラムオフィサーの那須民江先生からの挨拶があった。

開講式には5大学の学長が揃い、それぞれの学長からも熱いメッセ―ジが送られた。最後に学生代表の池田稔子さんが学ぶにあたっての抱負と決意を述べて閉式となった。

日本初の5大学共同の博士課程は、準備を担ってきた教職員の多くの困難を乗り越え開講までに辿りついたという安堵感、未知の世界に挑戦する11人の学生たちの期待と不安、このプログラムを担っていく5大学の学長をはじめとする大学関係者の責任の重み、そんなさまざまな思いが錯綜した開講式であった。



共同災害看護学専攻 開講式

代表大学学長式辞


日本で一番早く開花した高知では葉桜の季節となり、新緑の香りが大地を満たす今日の佳き日に5大学院共同で開催する博士課程共同災害看護学専攻の第1回目の開講式を挙行できますことは関係者一同にとりましてまことに喜ばしきことです。本日は年度初めのご多忙のなか、文部科学省から大臣官房総務課法令審議室室長の松阪浩史様、高知県立大学の設置団体である高知県から副知事岩城孝章様、入学生の皆様がこれからインターンシップなどでお世話になるWHO神戸センター所長 Alex Ross様を始め多くのご来賓のご臨席を賜っております。心から感謝申し上げます。

先ほど呼名されました11名の博士課程院生の皆様は、千葉大学、東京医科歯科大学、日本赤十字看護大学、兵庫県立大学および高知県立大学のいずれかの大学院に入学を許可された方々であります。皆様はそれぞれの大学院の院生であり、同時に5大学院が共同で開講する5年一貫博士課程である共同災害看護学専攻の院生であります。5大学の学長を代表して、皆様がこの専攻課程に入学されましたことを心から歓迎いたします。

皆様が専攻された災害看護グローバル養成プログラムは、いくつかの点で特徴があります。まず、設置団体や設置主体者が異なる国立、公立、私立の大学が共同でひとつのプログラムを構築していくというのは、看護学以外の分野ではないことで、開講までにいたる準備の段階では多くの困難がありました。しかし、その困難を乗り越えることで、一つの大学では到底できない、それぞれの大学の強さを補完的に生かしたプログラムが開発できたと考えています。従って、皆様の籍はそれぞれの大学院にありますが、同時に5大学院の教員や資源を活用できますから、あたかも5大学院に入学したようなものです。事実、5年後に皆様がめでたく修了されるときは、5大学の学長の連名による修了証書が渡されます。

さらに、このプログラムは文部科学省の「博士課程教育リーディングプログラム」のご支援があったからこそ開設できたことについて皆様お伝えしたいと思います。プログラムが採択されて本日までの1.5年間、遠隔地の大学を結ぶ教育環境を整えることができましたし、これからの5年間皆様が勉学に精進できる環境づくりも可能になりました。このような機会を与えられたことはまことにありがたく、心から感謝申し上げます。

さて、皆様ご存じのように世界における大規模災害は止むことなく、次々に発生しています。内閣府の防災情報によると、毎年世界では、自然災害によって約1億6千万人が被災し、約10万人の命が奪われるとともに、約400億ドル以上の被害額が発生しています(1970-2008年の平均)。また最近の10年間をみると、1970年代に比べ、発生件数、被災者数ともに約3倍に増加しています。

アジア圏に自然災害が多いのですが、日本もしかりで、3年前に発生した東日本大震災の爪痕はまだ生々しいものがあります。仮設住宅や他県など避難生活を送る人は約26万7千人に上り、健康状態に悪影響を及ぼしているといわれます。地震と津波に加えて東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を強く受けている福島県では、震災関連死(1671人)の人数が地震や津波による直接死(1607人)の人数を上回ったという情報もあります。(日経新聞2014年3月11日)

昨年1年間をみても、わが国では台風18号はじめとする自然災害、福知山市花火大会など人為的災害も続発しています。11月に発災したフィリッピン台風の被害は1400万人が被災者となり、350万人が家など失って不自由な生活を余儀なくされ、それがいまも続いていることは記憶に新しいことです。戦争や紛争で生命を失うニュースは頻繁に報道されていますし、災害は日常化しているように思います。今週になってチリ沖地震によって津波が本土にも届くというニュースは、過去の津波による犠牲がフラッシュバックし、近い将来発生すると予測されている南海トラフ、東南海地震などがもたらす被災を彷彿させて、眠れない夜を過ごされた方もいらっしゃったかと思います。

災害に対する看護界の対応は19世紀の半ばのフローレンス・ナイチンゲールに遡ります。その後は世界の赤十字社や各国の軍隊などによって災害時の救護活動が多くの人々の生命を救ってきました。しかし、本格的に防災・減災を災害サイクルでみる災害看護の考え方は1995年の阪神淡路大震災と東京地下鉄サリン事件以後に職能団体や日本災害看護学会を中心として提案され、その後の災害時に対応できるようになっていました。しかし、2004年のインド洋の地震と津波、そして3年前の東日本大震災を経験して、それまで培ってきた災害看護の制度や体制では十分に対応することが困難であることがわかっています。災害は突然発生するように見えて、そうとは言い切れない忍び寄る危機は感知されています。この地球は温暖化に向かっているとよく言われますが、一方では、北極の氷の増大や太陽の黒点、そして今年の冬の北半球の豪雪地帯の拡大などから地球は寒冷化に向かっているという説もあり、いずれにしても気候変動はゆっくりと忍び寄る災害発生を予感させます。また、世界の政治経済の不安定さがもたらす貧困層の拡大、健康格差の拡大、また都市化が急速に進む人口移動など私たちが住む地球は大規模災害に繋がる要因が山積しています。

今年入学された皆様には災害看護のグローバルリーダーになることが期待されています。グローバルリーダーとはどういう人をいうのでしょうか。昨年講演していただいたJudith Oltonはまず「地球市民」になることを勧めています。人が生まれて歩行できるようになるには段階的な経験的学びがあってできるように、global citizenshipは学習しないとなれないのだといわれました。それではglobal citizenは誰かというと、「anyone who works the world better place, 世界をより良い場所にするように働く人」であり、だから世界のどんな小さなところで仕事していてもglobal citizen になれるのですが、そのためには常に世界全体を意識し、慣習や文化、価値観の特徴を理解でき、ともに存在しながら問題の解決に向けて務めることができる人だと思います。しかし、それは容易なことではありません。困難に何度も遭遇することでしょう。特に皆様は災害という悲惨な状況下の方々と出会いますから、挫折や絶望感に襲われ、四面楚歌の経験をすることもあるでしょう。

私は、自分が四面楚歌のような行き詰まりを感じたとき、ネルソン・マンデラに思いを馳せます。南アフリカの白人社会から弾圧され、27年間という長い間牢獄に閉じ込められるという不条理な経験をした後に、彼が自分の人々に、そして世界の人々に伝えた言葉は、限りない勇気を与えてくれます。彼は弾圧と闘いながら、自分を見失わず、怒りに身を任せずに、敵をも許し、平和の心を世界に広げてノーベル賞を授与されたよく御存じの方です。私は、彼の強さの根源は何だろうと彼の言葉の海をさまよいました。そしてこの言葉に出会いました。

彼は言います。 If you are in harmony with yourself, you may meet a lion without fear, because he respects anyone with self -confidence. あなたが自分におだやかな気持ちでいられたら、ライオンにであっても恐れなくてよいだろう。なぜって、ライオンだって自分を信じる人には敬いの気持ちを抱くからだ。

自分で自分を信じる力をもつ人は、どんな困難な状況をも乗り越えていくことができるということでもあります。この5年間では専門的知識や技術を身につけることを通して、自分をよく知り、どんな困難な状況に遭遇しても、自分自身でいられる鍛錬をしてほしいと思います。その根幹は、自分で自分を信じることができるようになるということだと思います。皆様にはたっぷりと時間があります。どうか時間をかけて、harmony with yourselfとなられますことを期待いたします。最後にご臨席賜りましたご来賓の皆様におかれましては、入学生たちの成長をお見守りいただけますよう、そしてこのプログラムがさらに発展して真の博士課程リーディングプログラムとなることができますようにご指導ご鞭撻をお願い申し上げ、5大学を代表して式辞といたします。


このプログラムは、文部科学省「平成24年度博士課程教育リーディングプログラム」に採択されて実施しています。