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フィリピンでのフィールドリサーチを終えて






【今回の渡航目的】 高知県立大学とアテネオ・デ・マニラ大学(以下フィリピンチーム)の2校によるJ-RAPID採択の共同研究のためにフィリピンに滞在となりました。研究内容はそれぞれが持つ避難情報アプリを共有・統合し1つのアプリケーションとするために、フィリピンでの実証実験を行い、妥当性や実現可能性を検証するというものです。今回の渡航趣旨はフィリピンの生活がどのようであるかをフィールドリサーチにより把握し、アプリのコンテンツをフィリピンチームと共に考えること、またフィリピンチームと共にレイテ島タクロバンへ行き、2013年11月に起こった台風HAIYANに関するインタビューを行うことでした。

【マニラでの滞在】 9月16日私たちはルソン島のマニラ空港に到着し、フィリピンチームと初めての対面をしました。4月よりこの研究の準備を双方で進め、主にEmailで継続的にやり取りをし、何度かSkypeでミーティングを行いましたが、実際対面したのは今回が初めてであり、やっと会えたという嬉しさや安心感がありました。翌日17日アテネオ大学へ訪問をし、さっそくアプリのコンテンツについてのディスカッションを行いました。ここで感じたことは、国が違うと当然言語が違い、また文化も大きく影響することから、その言葉の持つ概念や、意味の感じ方・捉え方が違うということでした。例えば、’安全’という言葉一つでも日本とフィリピンではその内容や範囲が異なり、それらを理解し共有することが共同研究を行う上で重要であることが分かりました。

9月19日フィリピンチームと共にレイテ島タクロバンへ出発するべく空港へ向かいましたが、台風Marioの影響にて結局飛行機は飛ばず渡航はキャンセルとなりました。空港からホテルまでバスで帰る途中もあちこちの路面が浸水しており、看板が吹き飛ばされていました。また現地のニュースでも大きく取り上げられ、車や家が浸り、浸水している中を自力で泳いだり、ボートで救出されている映像が配信されていました。台風Marioは最大風速・最低気圧より勢力はそれほど大きいものではなかったですが、速度が遅かったためマニラ市内の人的・物的被害が拡大しました。また一方で被害が拡大した原因にはインフラが充分に整っていない背景があり、フィリピンの首都マニラでも災害に対し物理的な脆弱性を持つことを知りました。

9月21日台風Marioで避難所となった小学校を訪問し、小学校の先生に台風の時の状況、避難者の様子、この避難所の設備等のインタビューを行いました。避難所となった場所は広さは数百人が入ることはできるものの、屋根のみがあり壁はなく、床はコンクリートでした。また今回この避難所には避難者が2000人程度いたそうですが、その人数に対しトイレが3つしかなく不足していました。今回は台風は1日で過ぎ去り、避難者へ大きな影響はなかったそうですが、この環境で長期間過ごすとなると、人々の生活や健康へ悪影響が出てくることが考えられました。また小学校のため台風が過ぎ授業が再開すると避難者は出て行かなければならず、家が台風によって壊されてしまった人たちは行くあてがなく困っていることも知りました。フィリピンでは貧富の差が激しく、また同じ地域内でもその差が顕著です。裕福でしっかりした家に住んでいる人たちは台風時はまず垂直避難をし、浸水がなければ被害はほとんどないですが、逆に貧しく自分達で作った家に住む人たちは台風等の災害による被害の影響が大きいことが明らかになりました。

9月22日この日はフィリピンの最小の地方自治単位であるバランガイへ訪問しました。バランガイは日頃より地域に密着しており、災害時にはその地域の支援を率先して行うなど大きな役割を果たします。バランガイの方たちへ避難情報アプリの使用方法を説明し、実際に使用してもらい実用性を検証し、また今回の台風Marioについて質問紙を用いてインタビューを行いました。インタビューデータより、フィリピンでの災害時の避難所での生活の様子がより明らかとなり、また避難所により設備や環境にも大きな差があることが明らかになりました。



【感想】
8日間のルソン島マニラでの生活を通し、現地の人々の生活をより理解することができました。そこには日本とは違う生活様式や文化、経済状況があり、その中で物理的・社会的脆弱性より災害による被害というものが存在することが分かりました。今後その中で、どのように人々の生活や健康を守ることができるのか、私たちが看護職としてさらに関われることはないかを考えていきたいです。一方、レイテ島にはいくことができませんでしたが、私たち自身が外国人という’災害時要配慮者’の経験をすることができたことは貴重な体験でした。さらに、初めての土地で、初めて会う方たちと、母国語でない言葉を使用しながらコミュニケーションをはかり、関係性を築き、一つのことを作っていくという他分野との共同研究を進めることができました。今後ますます発展するであろうグローバル化を考えながら、今回のフィールドリサーチの経験を糧にし国際力や学際力をさらに養っていきたいです。
                                                              DNGL 諸澤美穂・西川愛海




このプログラムは、文部科学省「平成24年度博士課程教育リーディングプログラム」に採択されて実施しています。