災害看護支援ネットワーク研究in高知
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平成16年度 研究活動の報告


◆◆ 第6回日本災害看護学会年次大会

「災害における看護の役割を発揮するための連携のありかた」

 それではまず、台風の話なのですけれども、この台風の発生という第1報を聞いたのは、確か月曜日ぐらいだったと思います。高知ですと台風の発生の知らせを聞きますと沖縄を経由して来ますので、大体一週間くらいは大丈夫だろうというふうに今回も思っておりました。大会には影響ないだろうと。ところが、ご案内の通り発生した場所、あるいは進行方向が全く逆ということで、非常に奇妙な台風でございます。その影響を受けまして私ども大会事務局でも、一昨日辺りからどうしようということで悩んでおりました。昨日になりますと会員の皆様方から今大会が本当に開催できるのかというようなお問い合わせも数件いただきまして対応しておりました。昨日、予定通り大会は開こうということを決めたわけですが、自然の台風という力に対して我々人間というのは本当に何もできないなということを感じました。そういった状況の意思決定の中で、例えば、台風が来たときにどう対応しようかという課題が出てきまして、昨日はその課題をクリアするためにバタバタしておりました。そのプロセスの中で、確かに我々は台風の向きを変えるようなパワーは持っていない。けれども、そういうことが予想されたときに、例えば、事務局の中の役割分担、あるいは業者を巻き込んでの連携、ネットワークをうまく活用することによって対応はすることができるということを改めて確認した次第でございます。ちょっと、こじつけ的になるかもしれないのでが、まさに今そのような状況になっているわけでございます。

 それでは、スライドお願いします。皆さんはこの写真を見てどういう風に感じられますでしょうか。例えば、2週間前に新潟県を中心に、福島県、福井県で水害がございました。あの報道を見て、高知の方は、異口同音、みなさん「あー、高知と同じだ」と言われたんですね。実はこれ、高知の、先ほどご紹介いただきました平成10年のときの豪雨災害のものでございます。ご紹介いただいた通り、この豪雨災害から、私ども高知県では、看護職のマンパワーとか、看護として災害に対してどういう風に活動して行ったらいいかということを、研究として始めたわけでございます。そして、ここにタイトルを書いてございますけれども、「目指すはネットワークの構築」というわけで、これは日本看護協会のパンフレットでも、マニュアルの方でもネットワークというのはキーワードになっています。あるいは、この学会の前身であります日本看護科学学会災害看護部会というのがありましたが、その中でもネットワークというのは一つのキーワードでありました。そこで我々、高知県のグループでも同様に、これまでの体験から他の多くのグループがネットワークを構築しようと、それを目指して活動を始めたわけでございます。どのようなネットワークになるかは、これはわかりませんけれども、そのプロセスの中でいろんなことを学びました。私ども活動を始めまして、実はもう6年目に入ります。まる5年経つのですが、最終的なネットワークのところまでもう一歩のところでございます。それまでにクリアしなくてはいけなかった問題など、そういうものを織り交ぜながら今日はテーマに沿ってお話をさせていただきたいと思っております。

  本日の内容ですが、まず、テーマとしてご紹介いただきました通り、災害における看護の役割を発揮するための連携のあり方ということで、キーワードは「災害における看護の役割」、そして「連携」ということでございます。まず、災害看護の動向ということで、学びからのネットワーク、そして、高知県での取り組みをご紹介したいと思います。災害における看護役割の体系化と災害看護支援ネットワークの検討、そして最後にこのテーマに対応して、最終的な形としての、実効ある災害支援ネットワークの構築のまだ一歩手前ではございますが、その内容についてお話したいと考えております。

  それでは、災害看護学会の動向でございます。(図1)学会の初期、黎明期でございますが、災害看護の体験から学びを整理するということが行われました。それから、その学び「実践値から理論値への体系化」、そして先ほど言いました、多くのグループが目指しております、「災害看護支援ネットワークの構築」というものをゴールとして研究活動が行われてきました。ここら辺は、昨年度の第5回大会にて、ちょうど5年目の節目ということで、シンポジウムで企画され、5年の総括が行われております。このネットワークを構築するためには、私どもも5年間やってきて感じていることなのですが、「ネットワークを活用できる連携のあり方」が大切なんですね。この連携というのが非常に抽象的で、具体的にはどういうことかと言うと、色々な切り口から説明することができると思うのですが、この連携というのが具体的にはなかなかうまくいかなくて、最終的に構築したと思える、描いたネットワークを動かすことができないということを感じております。

  それに関して高知県の例を通しながらお話したいと思います。そういうことがありましたので今回、第6回の大会のテーマといたしましては、ご案内の通り災害における看護の連携、看護の役割を発揮するために連携と看護の役割をキーワードにさせて頂いた次第でございます。それでは、高知県の取り組みということなのですが、私ども高知県災害支援ネットワーク検討会というのを持っております。これは平成10年の高知豪雨災害を受けて、その年にお金がなかったものですから、たまたま高知県の職員提案事業がありまして、秋に募集がありましたので応募いたしました。ちょうど災害が終わってすぐのことでございました。それでお金を頂いて、次年度のお金ということなので平成11年にこの検討会を立ち上げております。これがその当時の目的でございます。5年経っておりますので若干、修正するところがあります、地域の看護職、あるいは関連職種との災害発生に備えた日頃からのネットワーク育成を目指して、看護職を中心とした保健医療専門職よりなる検討会を組織し、望ましい看護支援ネットワーク体制と看護活動のあり方について分析、提案をしていこうという目的の基に検討会が立ち上げております。

  そのメンバーですが、まず、県下の全災害看護支援病院、県下は6ブロックほどに分かれておりまして、災害が発生した時にそのブロック単位で動くということになっております。それぞれのブロックに最低1つは災害支援病院というのがございまして、全部で11ございますが、その11全ての災害支援病院の災害看護担当の方に出て来ていただいてメンバーに入ってもらっております。それと保健所、当初は県下に総合保健所は6つあり、その全てから出ていただいたのですが、今は効率化を考えまして、代表として2つから出て来ていただいております。それと高知市の保険所、高知県看護協会、看護職の養成機関として高知県総合看護専門学校、そして最後に私ども高知女子大学の看護学部各領域。各領域というのは、災害が一度起こりますと、住んでいた家から離れた避難所での生活ということで、色々な側面からの援助、総合的なアプローチが必要だろうということで、各領域から一人は出るように私ども学部の中で調整いたしまして組織を作りました。これで総勢30人くらいの組織になりますが、平成11年に立ち上げたわけでございます。実は検討会プラス連絡会というのがございます。(図2)まず、検討会というのは先ほどから説明しておりますようにこのメンバーなのですが、連絡会というのを平成13年に立ち上げております。先ほど説明した目的に沿ってこの検討会の活動をしてきたわけですが、色々なアイデアが出るんですね。しかしながら、我々が目指しているものは、特に災害看護というのはそうだと思うのですが、実効あるものでなければならないわけです。結局、計画は良かったけどできませんでしたでは困るわけで、実効性を確認する必要性があったということでございます。そこで、行政との連絡会が必要になった。これが立ち上げてから2年後の平成13年でございました。連絡会のメンバーとしては、高知県から医療の主幹課、あるいは防災の主幹課、情報企画の主幹課、そして高知市からは防災の主幹課、保健−健康福祉の主幹課というところから出て来ていただいて、検討会で作った案について本当に動くのかという確認をして、コメントをいただくということになりました。一度災害が起こりますと必ず国のレベル、あるいは県のレベル、市町村のレベルで災害対策本部というのが立ち上がります。立ち上げられたこの災害対策本部といかにこの連携を取ってやっていたかというのが、結果的に看護職の持ちうるパワーを発揮できるかということになりますので、非常にこれが重要だという風に考えたわけでございます。そこで看護協会と私ども高知女子大学の看護学部のプロジェクトチームが架け橋的な役割となって、両方の会に出て調整をしています。特に私どもの看護学部の役割として研究活動、会議の企画運営、あるいは原案作成という役割を負って、この2つの会議を車の両輪のごとく今まで運営してきたわけでございます。

  この検討会のアプローチでございますが(図3)、一番初めのパネルでご説明した通り、目指すは「実効ある災害看護支援ネットワーク作り」でございます。アプローチの仕方として大まかに分けますと3つのアプローチがございました。1つは災害における看護の役割の明確化、効果的なネットワーク形態の検討、そして連携のあり方、この3つのアプローチをすることによって最終的に実効ある災害看護支援ネットワークというのが構築できるだろうということで今までやって来ました。

  それでは一つひとつについてご説明したいと思いますが、まず、災害における看護の役割の明確化でございます。この図は(図4)、平成9年に作られました高知県の災害救急医療活動マニュアルに明記された、高知県で災害が起こったときに医療救急活動をどう行っていくかを表したものでございます。まず、高知県の災害対策本部ができます。市町村の災害対策本部もでき、県の本部の下に高知県災害医療対策本部、医療に対する対策本部というのができます。その下にこのような階層構造をもって、第3次救急の医療施設、各支部、保健所等が中心になって構成されております。それと先ほどご紹介しました、災害支援病院、補完病院、救護所という形になっております。ところがですね、溝がちょっとあいていました。看護の役割に関して見ますと明確に記載されていませんでした。実は、これは本年度に改正されるということで、昨年度から本年度にかけて修正しておりますが、平成9年当時のものは災害時の看護の役割についてはほとんど記述されていなかったということでございます。ですから、看護の視点から見ますと、どうもここら辺に溝があって連携がないというような状態でございました。そこで、我々が何をしたかというと、災害における看護の役割の明確化ということをしようと。それをすることによって、ここに統一した共通理解が得られれば、結果的に空いている溝が埋められ、補完できるのではないかと考えたわけでございます。そうしますと、ある意味ではこれはネットワークだと思うのですが、この三角形に、例えばライトを当てるとその裏に影ができる。これが、我々が目指す連携体制、つまりネットワークではないかと当初考えて、これを作ろうということでスタート致しました。従いまして災害における看護の役割を明確にするということが、非常にこの研究活動のベースになる、重要なところだったわけでございます。

  それでは、役割の検討の視点ですが、災害時の看護の役割ということでいくつかの視点を考えています。まず、災害の種類ですね。水害とかあるいは地震というようなものであります。そして、時間経過。当然、備えというまだ発生していませんという時もあれば、発災直後、あるいは3日後、1週間後、1ヶ月後、あるいは長期に渡ってという見方があります。そして、職種。地域ですから、保健師の皆さん、あるいは施設の看護師の皆さんというように、職種によっても役割が違ってくると思います。活動場所は、地域なのか、施設なのか、あるいは救護所なのかということですね。そして、支援の参加の仕方。今まで施設で働いた方が応援ということで地域に救護チームとして出る場合もあります。これは派遣ということになりますね。あるいは元々、保健師さんが地域を預かっていて、そこに住居しているような状態もあります。このような支援の仕方、というのが災害時の看護の役割を考えるときの視点だろうということで、このような視点を使って役割の整理をしていきました。

  具体的な分析ですが、阪神・淡路大震災をはじめとしまして、平成10年の高知豪雨災害等の災害において、災害看護活動を経験した看護職の方から聞き取り調査を実施しております。そのデータを基にカテゴリー化をしております。その結果、例えば、大項目が5項目、中項目14項目、小項目46項目、後この下に実は120数項目という項目がありまして、そのレベルまでいくと具体的な看護の役割というのが見えて来るわけでございますが、そのような体系化を行っております。その結果ですが(図5)、これは中項目からなのですが、被災状況の把握という役割があります。あるいは健康レベルの維持・回復、安全の確保・保持、あるいは災害の被災者の生活の建て直しなど、情報の把握と具体的なケアというものが現場ではあり、それが相互に関係しあっているだろうと。こういう役割がある。そして、救護救援システムの構築と運用などそれらを支えるようなそんなものもあるだろうと。その様な体系化ができました。更に、このまとめられた災害看護の役割を洗練化していこうと。実はこのような内容については、この学会で何回か発表させていただいたのですが、皆様のご批判をいただきながら洗練化ということをやっておりました。私どもは、研究活動として洗練化していく方法としてワークフロー分析というのを使っております。(図6)時間がありませんので簡単に説明させていただきますと、例えば、一番下の具体的な役割は、120数項目ありますが、それをアクティビティとします。左から入って来るのがインプット、上から入って来るマニュアル等の情報により、役割がコントロールされ、下から入って来る資源や人間、設備などがメカニズムで役割の発揮を支援し、結果的に役割が効果的に発揮されることによりインプットをアウトプットへと変化させます。非常に単純なのですが一つひとつを見ていっても意味がなく、役割の連携というのが必ずあるはずでの、その役割の連携の中から、その役割がこれで本当にいいのかどうかというような確認をする手法です。このワークフロー分析の利点といたしましては、どこからどんな情報が入ってくるのかが明確になります。いわゆるインプットのほうですね。そしてどんな連携のルール、取り決めでその役割が遂行されるのか明らかになる。つまり、上から降りてきます。コントロールの部分です。そして、どんな資源、他施設の資源も含めて資源を調達し、そして、その役割が遂行されるのかが明らかになる。この下のメカニズムの部分です。そして、最終的にその役割を遂行した結果として色々な情報や成果がどこに出て行くのか明確になる。アウトプットの部分です。この4つの視点は、単純ではあるのですが、これをそれぞれの役割の連携という視点から分析していきますと、この役割がちょっとおかしいのではないかとか、そういう重み付けも含めて色々な議論が出る。結果的に洗練化できるというものでございます。先ほどの一つひとつの役割が、幾つも繋がって行きます。非常に入り組んではいますけれど、こういうものを作って、120幾つかの役割の関係性を図に表すことができ、それをコンピューターでシミュレーションします。本当はコンピューターでシミュレーションした結果をグラフィックスにしてアニメの状態でこう説明することもできます。実は私、一部だけそれをやったことがあるのですが、なかなか技術がなくて全体を動かすというところまではいきませんでした。しかし、数値的なシミュレーションはコンピューターの中でできますので、どこが悪いとか、どこが足らないのかということが分析できます。このような手法を使いまして看護の役割の洗練化ということを行いました。聞き取り調査から得たデータで分析し、コンピューターを使いながら洗練化していったわけですが、実際に現状はどうかということも調べております。A県における災害看護への取り組みに関する検討ということで調査をしております。調査目的といたしましては、災害看護に対する準備状況を明らかにする。どんな役割があってどんな役割がないかですね。そういうふうに議論できるわけです。準備状況に影響する要因を明らかにして、今後の取り組みに対する課題を明らかにする。このような目的で、例えば調査方法といたしましては他職種との連携の方法はどうであろう。自組織の体制作り、個人の実践はどうか、情報の把握と整理はどうかというような視点でアンケート用紙を作りまして調査をいたしました。その結果でございます。この調査は今から3〜4年前のものですが、災害看護の検討会を立ち上げておりますので、たぶん、今は変わってきていると思いますが、その検討会を立ち上げる前の実態というふうにご理解ください。一部でございますが、全体傾向といたしまして、取り組みの低い項目、例えば、「ボランティアの活用方法の確認がされていない」という項目は84%ありました。他の医療機関との連携方法が取り組まれておりません。あるいは「災害要援護者の把握の検討」。実は平成10年の高知豪雨災害でもそうでしたが、今回の新潟を中心とする災害でもそうでした。災害要援護者対策が遅れているということが指摘されたばかりでございます。実は3〜4年前の調査のときに、このA県でもそうでございました。現在もこれは課題になっております。あるいは「生活物資の確認」とこういうものが取り組まれていないことがわかります。次に、役割の検討ということでその役割の分析の、最終的には成果ということになるのですが、災害看護ガイドライン作成というのを行っております。何度も繰り返しますけれども、最終的には災害看護支援ネットワークの構築というのを目指しておりますが、このプロセスの中でひとつ大きく学んだことがございます。それが研究活動の視覚化ということでございます。それは何かと言いますと、まず、検討会を立ち上げました。2年後に連絡会を立ち上げて行政のご意見を伺いました。その行政のご意見を伺う中で、一番大きかったのが、実はこの視覚化ということなのです。私どもは毎回、災害看護学会で発表させていただいて学術的なペーパーとか、そういうものが積み重なっていったわけですが、それを行政に見せますと「あー、皆さんこういう活動をされているのですか」と、これは理解していただけるのですね。ところが、最終的にネットワーク作りをしましょうと、行政からこういう情報をもらって、我々はこういうふうに動いて、あるいは行政に対して我々からこういう情報発信をしてという話になったときに、じゃあ行政ではどこが窓口になるのかという具体的な話になるわけですね。行政で窓口を作るということになりますと、結構、行政の組織体制を変えたりとか大変な作業になるわけです。その様な大変な作業をやるかどうかの意思決定のときに、我々の今まで積み重ねてきた研究活動の説明では、具体性がないということなのですね。そういうことを何回も言われました。我々は当事者ですからわかっているつもりだったのですが、第三者から見ると、なかなか、そこら辺の視覚化ができていなかったかなというのが反省点でございます。

  全ては見せることができませんので、少なくともこの研究の本当に源泉にあたるところ、必要条件にあるところの災害看護の役割は視覚化しましょうという目的が含まれております。それで、これまでの研究成果をベースに災害における看護のまとめとして、災害における看護のガイドラインというのを作成いたしました。作成方法ですが、今までの資源、研究成果をベースとして、一番としては実際に行われた災害における看護活動の分析、先ほど説明しました役割の明確化、役割の洗練化、そして、この役割をガイドラインの作成の枠組みとするというのが1つ。2番目としましては、災害看護の取り組みの状況調査、課題の明確化。先ほどご説明しました通りA県下の施設からいただいた情報を分析して、どんなところが必要なのかということで災害看護への取り組みの現状を参考にしながらそれも組み込もうと。ということで役割と現状の両者のバランスを取りながら最終的にはガイドラインを作成していこうと、こんなアプローチをいたしました。(図7)これは災害看護への取り組みの現状の構造分析ということでアンケートのデータをベースに多変量解析を行いまして、分析しております。災害看護の備えというのが概念として一番高くて、その下に訓練があり、被災状況の整理とか事前確認検討というふうに構造を分析しながら、この構造分析の結果も参考にしてガイドラインを作成しました。

  ガイドラインの作成方針ですが、まず、役割の分析から災害における看護の役割として発災前の備えが重要であると。つまり、備えというキーワードですね。それと、経時的な変化です。経時的に役割が変化するという経時というのが1つのキーワードとして抽出されました。また、現状の準備性の分析。アンケート調査の分析からは、関心の低さですが、3〜4年前はちょっと関心が低かったです。今ですと非常に関心は高くなっております。毎日のように地震に関する報道がされております。訓練の必要性、訓練には、職位による意識の差がある。スタッフに対して、看護管理者に対してと、別の視点でアンケート調査をさせてもらっておりますので、職位によっても意識が違うというのもわかっておりました。それで、職位により役割も当然違うだろうということで、これも作成方針の中に入れております。

  具体的なガイドラインの作成でございますが、全体の構成としては、まず、時間の流れですね。経時というキーワードに則りまして、時間の流れに沿って構成することを考えます。第1章は災害、災害看護の概要です。災害や災害看護に関心のない方もいらっしゃると思いますから、まず、災害や災害看護の概要をそこで説明します。第2章は非常に重要な備えのことですね。そして、第3章は、発災直後の看護の対応を、応急的な対応、異常事態における工夫ということで、職位別に役割としてまとめていこうとしております。そして、第4章では発災72時間以降、3日以降ということですが、時間経過に伴う看護のレベルと環境変化をベースとした看護の役割を、またこれも看護管理職とスタッフでは当然持つべき役割が違うだろうということで、職位別にまとめております。第5章は、発災後長期間に渡るものとして、健康レベルの維持・回復です。これは支援者も含むということですが、被災者の生活の建て直し、住民の組織の育成、次の災害に対する備えということも含めて、住民同士のサポートシステムの構築支援というのも役割ではないかと考え、まとめております。ちょっと見づらいのですが、これが今ご説明した全体の章立てになっております。(図8)第1章から第5章までそれぞれの節がこんな感じですが、最終的に出来上がったものが写真で示す通りです。「災害看護のガイドライン 〜災害!!そのとき看護は・・・〜」ということで災害における看護の役割をまとめたものでございます。(図9)実はこれが第2版になります。昨年の冬に第1版目を作り、1年経過して中身の改定を幾つかしております。修正をいたしまして、今年の3月に新たにまた印刷しました。これをこの会場の受付の「ご自由にお取りください」という所に置いてございます。参加されます方々に行き渡るように、人数分は用意しているつもりでございますので、もし、よろしければお持ち帰りいただいて、またご批判をいただきたいと考えております。

  次のアプローチの確認ですが、最終ゴールは、実効ある災害看護支援ネットワークの構築でございます。(図3)今、ここの話をさせていただいたのですが、第2のアプローチとして、効果的なネットワークの形態の検討が必要です。いくら役割を明確にしても、その役割を発揮できる環境作りをしなければ、役割を十分に発揮できないわけですね。ということで効果的なネットワーク形態の検討というのを行っております。

  まず、ネットワークとは一体何か。これが一般的なネットワークの定義でございますが、「互いに独立した組織や個人を引き合わせ、それぞれが互いの知識や技術を補完することで、一人あるいは一組織でできないことを可能にする。」ということです。このネットワークの必要性としては、災害下という状況の基では、当然ながら組織内の許容量を超えた対応になりますので、そういうときに組織を超えた調整とか対応の必要性が生じまして、ネットワークが必要になるということです。意義といたしましては、これはレビューですけれども、災害時の緊急性の増大に対応するために、ネットワークからの多数の資源の動員と機敏な対応が可能になる。専門的な知識や専門的な情報やマンパワー、物資など、他のネットワークが獲得することで不足部分を補完することができる。3番目としては、量的な補完のみでなく、専門性の拡大や多様性を獲得することができる、というような意義がネットワークにはあるわけでございます。これはネットワーク機能を表しているわけですが、一般的なものです。それを私どものほうでイメージするとこんな形になるということで図を描いてみました。(図10)まず、とにもかくにも真ん中に災害における看護の役割を発揮するのだということです。そのためには4つのネットワーク機能があるというふうに考えました。まずは、情報の提供と共有です。これを我々は基幹機能と考え、他の3つの機能とは少し異なると考えました。ネットワーク機能の中では基幹機能であるということで、周りを囲むように、情報の提供と共有があると考えます。例えば、看護における役割を発揮しようと考えたら、必要性に応じて情報が入ってくる。そのまま情報が帰って行くという場合もありますし、マンパワーが必要だよと情報が出てくれば、マンパワーが提供される。あるいは意思決定の支援の要請があり、意思決定の決定情報が出てくる。あるいは物資の供給がされるということですね。こんなふうにネットワーク機能を捉えました。

  災害における看護活動の最終的なネットワーク作りなのですが、効果的及び効率的にこの災害における看護活動の役割を発揮するためにどのようにしていったらいいかというと、先ほど申しました通り、いわゆるネットワークというものが存在しますとこの点線が一線になっていくであろうと考えました。(図11)要するに環境作りをしていくということですね。そこで災害看護支援ネットワークの目的と設計方針を研究いたしましてまとめますと、まず、目的ですね。災害における看護の役割を効果的・効率的に発揮できる、当然発揮するということであります。そのための設計方針が2点あるわけですが、1つは災害看護活動を支援する機能です。それと出来上がったネットワークを維持・管理する機能。当たり前といえば当たり前なのですが、きちんと整ったネットワークがこれまで無かったのではないかというふうに我々は考えておりますので、この2つの機能が備わったネットワークを作ろうということであります。その1番目の機能、災害看護支援ネットワークの設計方針、災害看護活動ですね。活動支援ネットワークの設計方針としましては、ネットワークの機関機能であるということで、この機関機能となる情報の提供と共有をスムースに行える環境を整える。つまり、そのことが結果的に災害看護活動支援ネットワークを構築することなのだ、というふうに考えました。一般的な支援ネットワークの課題と災害看護メンテナンスネットワークを作って行こうというのが、設計方針です。一般的なネットワークの課題は何か。経時的陳腐化と言う事ですね。例えば、年に一回ぐらいは防災訓練すると思います。年に一回ぐらいだと人が変わっていることもあります。その関係性はどうしても薄れていってしまうということです。それで自然消滅していく。ネットワークを作ったとしても、取り決めをして行ったとしても、時間とともにどんどん自然消滅してしまう。特に、災害におけるネットワークはこの傾向が強いです。なぜかというと、定期的な防災訓練しか機会がないわけですね。災害が本当に頻繁に起こっていると、ネットワークはどんどん強化されていくわけですが、実際には頻繁に起こっては困ります。どちらかというと、我々はこのネットワークが動かないことを日頃は望んでいるわけです。そんな状況ですので経時的な陳腐化はどうしても避けられない。そこでこのネットワークを維持・管理していく機能が必要であろうということで、維持・管理を一部の組織に委ねるのではなく、あなたのところはあなたのところでネットワークを維持・管理して下さいではなく、ネットワークを構成するすべての組織で行うことによって陳腐化が避けられるだろうということであります。どんな形を描いたかというと、三角を使いました。これが目指す災害看護支援ネットワークです。(図12)このネットワークがうまく動くと何が起こるか、何かいいことがあるかというと、災害における看護の役割が十分に発揮されるということですね。そのためには、先ほどお話しました三角形をまず半分に分けまして、頭のほうの三角形、これが災害看護活動支援ネットワーク。そして、下のほうの台形がそれを支える、看護活動を支えるメンテナンスネットワーク。ネットワークというよりは災害看護メンテナンスシステムと言ったほうがいいのかもしれません。全体を通して災害看護支援ネットワークというふうに我々は捉えておりますので、あえてネットワークとしました。また、先ほど1つの組織がメンテナンスをするわけではないと述べました通り、これはネットワークに参加しているメンバーが、自分たちでその関係性を維持していくというネットワークがあるのではないかと考えまして、ネットワークという名称が付いております。上の活動支援のネットワークは看護における役割を発揮するために必要な他組織との連携のルールで、下のメンテナンスのルールは、災害看護支援ネットワークを維持・管理していくためのネットワークであるということでございます。

  しかしながら課題がございます。この連携の明確化というのがまだまだ不十分ではないだろうということです。明らかになった課題ですけれども、災害看護活動の支援ネットワークでは、連携の明確化、今ご覧いただいた通りです。情報の提供と共有の窓口を、例えば市町村、民間組織レベルに整理しまして、具体的な連携ルートを現在検討中でございます。これが踏み込めますと最終的にネットワークが構築できるというふうに私どもは考えております。災害看護メンテナンスネットワーク、つまり下の台形の部分ですけれども、維持・管理の仕組み作りでは、例えば今のアイデアですと、チェックリストとかネットワークテスト、定時的、あるいは抜き打ちテスト、不定期にやって本当に動くかどうかを確認します。これらは、いつするかわかりません。決まられた通りに情報が通るかどうかですね。あるいは訓練、年に一回くらいは揃っての訓練もいいでしょう。その体系的な企画・実施まで踏み込んで参加するということでございます。

  次に、実効ある災害看護支援ネットワークへのアプローチです。最後のアプローチですが、連携のあり方。このときには災害看護の準備状況の調査も通して議論をしております。まず、その調査目的は、A県内の各医療施設の災害看護に対する準備の状況について調査しまして、災害救急医療活動マニュアル、先ほどご説明いたしました平成9年に作られました県のマニュアルを有効活用するため、要件を見出しまして今後の課題にしようということであります。これが調査したときの枠組みなのですが(図13)、看護スタッフの準備性はどうか、施設の準備性、組織の準備性、看護としての組織の準備性はどうか、他組織との連携はどうかということを、看護ばかりではなく施設に関しても分析して、最終的にはマニュアルにおいて看護の役割を発揮できるようにするということを考え調査いたしました。調査結果の一部ですが、「医療機関との定期的な連絡は取っていますか」ということに関しては、非常に低かったですね。3〜4年前の結果でございますが、特に災害支援病院との連絡はゼロでございました。母数が11ですが、その11中、その当時はゼロです。今はだいぶ上がっていると思います。例えば2番目、医療機関以外の他の地域との組織の連携はどうですかというクエスチョンに対しては、さすがに保健所は高かったです。あと、市町村と、ひとたび災害が起こった時に活動する医療機関との連携が非常に低く、連携が全然できていないという状況がわかったわけでございます。この調査から明らかになった課題をまとめてみますと、医療施設同士の定期的な連絡ということですね。あるいは、病院における医療機関以外の地域の組織との連携方法の確立というのが必要ではないかということが指摘されております。


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