5. 足し算の性質(置換積分法、部分積分法、基本的な関数の積分公式の導出)

5-1. 定積分=足し算=原始関数(微分積分学の基本定理)

定積分は、無限小量の無限個の足し算です。正確には「連続無限個(可算無限個より多い)」の足し算であり、この足し算を \( \int \) という記号で書いています。 例えば、変数\( y \)を細かく\( dy \) に分けて、\(y=y_1 ~ y=y_2 \)まで足したら、元々の長さ(差)に等しいので、\[ \int_{y_1}^{y_2}{dy}=y_2-y_1 \]になります。もし \( y=F(x) \) なら \[ \frac{dy}{dx}=\frac{dF}{dx}=F'(x)=f(x) \]とおけば、\( dy=F'(x)dx=f(x) dx \) なので、この和を変数\(x\)で書けば、\[ \int_{x_1}^{x_2}{ f(x) dx }=y_2-y_1 = F(x_2) -F(x_1) \]これが微分積分学の基本定理で、「無限個の足し算は、微分の逆演算(原始関数)の差で求められる」ことになります。 これを言い換えると、原始関数は、

\[F(x)=\int^x_{任意}{f(x) dx} =\int f(x) dx\]

という、「上限を変数とした定積分(これを不定積分と呼びます)」で求められる、ということにもなります。これを不定積分とも呼びます。つまり、原始関数(微分の逆)は不定積分(上限を変数とした定積分=足し算)に一致します。

 



5-2. 積分の基本的な性質


【積分の線形性】

積分は「足し算」なので、かっこのはずし方は...足し算のかっこの外し方と同じです。つまり\[ \int{ (a f(x)+ b g(x) )dx }=a \int{ f(x) dx} + b \int{ g(x) dx}  \]となります。


【置換積分法】

微分は割り算であり、積分は足し算です。ですから、普通に「約分」の計算が使えます。微分の時の合成関数の微分法と本質的に同じで、たとえば、 \[ \int{  f(u(x)) \frac{du(x)}{dx} dx }=\int{ f(u) du} \] となります。これを使うと、「積分変数を変える(置き換える=置換)」ことができ、。
積分変数を変えたい時にも使えます。

例: \[ \int {(x^4+1)^5} {4x^3} dx\] ここで、\( u=x^4+1 \) とおくと, \[ = \int u^5 \frac{du}{dx}dx=\int{u^5}{du}=\frac{1}{6}u^6=\frac{1}{6}(x^4+1)^6 \]


【部分積分法】

積関数の微分と本質的に同じことです。 \[ \frac{d}{dx} \{ f(x) g(x) \}= f(x) \frac{d g(x) }{dx} + \frac{d f(x) }{dx} g(x) \]

\[  f(x) g(x) = \int f(x) \frac{d g(x) }{dx} dx + \int \frac{d f(x) }{dx} g(x) dx\]

書き換えると、

\[   \int f(x) \frac{d g(x) }{dx} dx = f(x) g(x) - \int \frac{d f(x) }{dx} g(x) dx\]

あるいは、

\[   \int f(x) g(x) dx = f(x) \int g(x) dx - \int \frac{d f(x) }{dx} \{ \int g(x) dx \} dx\]

とも書けます。被積分関数が、「積分しやすい関数」とそうで無い関数の積の場合に使えることがあります。また「微分すると0になる関数(つまり関数\(x\))」とそうで無い関数の積の場合もに使えることがある。また、右辺を最終的に左辺の式で書き下すことができる場合、この積分を「漸化式」の形に変形する時にも用いられ、漸化式を解くことにより最終的に積分を求めるような技巧にも使われることもあります。比較的高度な技巧として使われることが多いので、最初は自分で独自に部分積分の用い方を考えるよりは、この技巧を使った式変形などを見て、何をしているのかが追えれば、それでよいでしょう。

例えば、\[\int x \sin x dx =x \int \sin x dx - \int{ \frac{d x}{dx}\{ \int{ \sin x }dx \} }dx \\ = x (-\cos x) - \int{-\cos x} dx\\ =-x\cos x+ \sin x \] などのように使います。


【基本的な関数の積分】

微分と積分は逆の関係あります。そこで微分の公式を逆に用いると積分の公式になります。

・ \( \displaystyle \frac{d}{dx} x^n = n x^{n-1} \)

 \( \displaystyle x^n =\int{n x^{n-1} dx} \)

 \( \displaystyle  →  \frac{1}{n} x^n =\int{x^{n-1} dx}\)

 \( \displaystyle  →  \frac{1}{n+1} x^{n+1} =\int{x^{n} dx} \)


・ \( \displaystyle \frac{d}{dx} e^x = e^x \) 

 \(\displaystyle   e^x  =\int{  e^x dx} \)


・ \(\displaystyle \frac{d}{dx} \log x = x^{-1} \)

 \(\displaystyle   \log x  =\int{  x^{-1} dx} \)

・ \(\displaystyle \frac{d}{dx} \sin x = \cos x \) 

\( \displaystyle   \sin x  =\int{ \cos x dx} \)

・ \( \displaystyle \frac{d}{dx} \cos x = -\sin x \) 

\(  \displaystyle   \cos x  =\int{ -\sin x dx} \)



「積分の公式」を(微分の公式とは別に)覚える必要はありません。積分は、微分の公式を「逆に使う」ことだけ知っていれば、微分の公式を使って積分計算ができますし、その方が覚え間違えもありません。数学は「できるだけ覚えない(丸暗記しない)」学問ですし、それがコツです(覚えなければ、記憶違いも無いし、忘れることもありません(^^))。

積分に関わる式は、これで全てです。

積分は、微分と異なり、積分は「運が良く無いと、答えを初等関数で表現できない」ということがあるため「公式集に載っているものくらいしか、式の形では解けない(簡単に解けるものは、Maximaで解ける)」ということも知っておくと良いでしょう。ですから、一般的な問題は、式の形ではなく、「表の形」でコンピュータを使って、現実的な精度で、数値的に解きます。


では今日はこの辺で終わりにして、次回、コンピュータを使って、解いてみます。積分は、たかが足し算です。微分は、たかが割り算です。

では、今日は、このへんで終わります。