ここまでに学んだ「基本法則」をまとめてみましょう。なお、今までの講義ノートは「 http://www.u-kochi.ac.jp/~kazama/UOKLMS/phys/ 」に入れておきます。
\(N\)個の粒子の、位置\(\vec{r}_n(t)\)、速度\(\vec{\upsilon}_n (t) \),質量\(m_n\)、電荷\(q_n\) と置くと、
運動方程式:(力が与えられると、運動が決まる)
\[
m_n \frac{d^2 \vec{r}_n (t)}{dt^2}=\vec{F}_n,\\
\vec{\upsilon}_n (t)=\frac{d\vec{r}_n(t)}{dt}
\]
力は、万有引力と電磁力の和:
\[
\vec{F}_n =\vec{F}^G_n+\vec{F}^{EM}_n
\]
万有引力の法則:(距離の2乗に反比例する引力が全ての粒子から働く)
\[
\vec{F}^G_n=-G \sum_{k \neq n}^{N}\frac{m_n m_k}{ |\vec{r}_n-\vec{r}_k|^3} {(\vec{r}_n-\vec{r}_k)}
\]
電磁力(ローレンツ力の式):(電荷に働く力)
\[ \vec{F}^{EM}_n ( t ) =q_{n} (\vec{E}( \vec{r}_n,t )+\vec{\upsilon}_n (t)\times\vec{B} (\vec{r}_n,t) ) \]
マックスウェル方程式:(電荷密度と電流密度が与えられると、電場と磁束密度が決まる)
\[ {\rm div }\vec{D}( \vec{r},t )=\rho ( \vec{r},t ) \]
\[ {\rm div }\vec{B}( \vec{r},t )= 0 \]
\[ {\rm rot}\vec{E}( \vec{r},t )=- \frac{\partial \vec{B} (\vec{r},t) } {\partial t}\]
\[ {\rm rot}\vec{H}( \vec{r},t )= \vec{J}(\vec{r},t) + \frac{\partial \vec{D} (\vec{r},t) } {\partial t}\]
ここで、
\[ \vec{D}( \vec{r},t )= \varepsilon_0 \vec{E}( \vec{r},t ) \]
\[ \vec{B}( \vec{r},t )= \mu_0 \vec{H}( \vec{r},t ) \]
なお、粒子の分布から電荷密度と電流密度が決まる。。
\[
\rho ( \vec{r},t ) = \sum_{n=0}^{N} q_n \delta(\vec{r}-\vec{r}_n(t)) \\
\vec{J}(\vec{r},t)= \sum_{n=0}^{N} q_n \delta(\vec{r}-\vec{r}_n(t)) \vec{\upsilon_n(t)}
\]
となります。これは「閉じた方程式群」となり、「解が1通りに」決まります。
では、このような「沢山の粒子が集まったらどうなるか?」もまとめておきましょう。
気体を、このように粒子集団と考えるならば、気体の内部にあるエネルギーつまり、「内部エネルギー\(U\)と呼んでいたもの」は、箱の内部にある全粒子の運動エネルギーの和\(E_N\)です。 \[U=E_N=\frac{3}{2 }nRT=\frac{3}{2}N\bar{E}\] つまり「内部エネルギーとは、物質を構成している全粒子のもつ力学的エネルギーの総和」であり、「温度\(T\)」は内部エネルギーに比例しますから「内部エネルギー量の尺度」と理解することができます。また、外部から、熱 \(dQ\) という形か、仕事\(dW\)という形で、エネルギーを受け取れば、内部のエネルギー\(dU\)は、もらった分だけ増えますから、 \[dU=dQ+dW=dQ-pdV+dW'\] となります(熱力学の第1法則)。
また、巨視的には区別しない状態が、微視的には何通りあるか、という場合の数を\(W\)と書くと、エントロピーは \[ S=k \log W \] と定義されます。なお、導出の計算は省略しますが、この量の変化\(dS\)は、\( \sum_i \frac{dQ_i}{T_i}\)になります。時間がたつと確率が大きな事象(=場合の数が大きな事象=エントロピーの大きな事象)は容易に観測されますが、確率の小さな事象(=場合の数が小さな事象=エントロピーが小さい事象)は、現実的な時間では観測できないくらい希な現象になります。そのため、エントロピーが増える(あるいは変化しない)現象は容易に観測できますが、「エントロピーが減少する現象は、起こる確率がとんでもなく小さいため、現実的な時間では観測されない(=エントロピーが減少する現象は、起こらない)」と理解できます。 \[ dS = \sum_i \frac{dQ_i}{T_i} ≧ 0 \] となります(熱力学第2法則)。 また、絶対温度0度は、内部エネルギーが0つまり、全ての粒子が(全て運動エネルギー0で)止まった状態ですから、場合の数\(W\)は1通り、つまり、 \[ S(T=0)= k \log W(T=0) =k \log 1 =0 \] となります(熱力学の第3法則)。
なお、熱機関の熱効率や、ヒートポンプの原理や、その他諸々の熱現象は、これら、熱力学の3法則から理解できます。
ニュートンの運動方程式、万有引力法則、Maxwell方程式などを並べてみると、「これで1つの閉じた方程式群」となります。閉じた方程式群とは、「未知量と方程式の本数が一致しており、これだけで(初期条件があれば)完全に解くことが可能であり、解は1通りに決まる」という意味です。つまり、「初期条件を与えれば、あとはこれらの方程式を解くことができれば、1通りに、未来を求めることができる」ということになります。これを「古典物理学」と呼んでいます(物理学の世界で「古典」とは19世紀までの物理学のことです)。
もしこの世の中が、質量と電荷をもつ小さな粒子(原子とか素粒子とか)の集まりであるなら、初期条件より、質量の分布や、電荷の分布や電流の分布が分かり、質量の分布が分かれば(万有引力の法則により)個々の粒子に働く万有引力が分かり、電荷の分布や電流の分布が分かれば(Maxwell方程式により)電場と磁束密度が分かり、電場と磁束密度が分かればそれぞれの粒子に働く電気力と磁気力が分かり、それぞれの粒子に働くすべての力(万有引力と電磁力)が分かれば、運動方程式により、全ての粒子がその後どのように動くかが決まり... つまり、粒子集団の運動が「全て、分かる」ことになります。つまり「未来は1通りに決まっており、もし初期条件を知っており十分な計算能力を持つ魔物(デーモン)がいたら、人の運命や世界の未来を全て見通せる」ということになります。この話を「ラプラスのデーモン」と呼んでいます(ラプラスはナポレオンに「神(という仮説)は必要ないのです」と答えたといわれる人です)。
皆さんは、この世界観をどう思いますか?(^^; 19世紀終わりごろの世界観であり、当時の思想にも大きな影響を与えました。
ところで、この「自然界の全てを記述する基本法則」をまとめて書くと、ちょっとおかしなところがあることに、人々は(例えばローレンツとかアインシュタインとかは(^^;)気が付きました。それは、「静止した座標系と(それに対して等速直線)運動している座標系」での、「運動方程式(力学法則)」と「マックスウェル方程式(電磁法則)」の見え方(座標変換性)が異なる、という問題です。
ニュートンの運動方程式は、\[m \frac{ d^2\vec{r}(t) } {dt^2} = \vec{F}(t) \]でした。これを速度 \( \vec{V} \) で動いている場所から見ると、\[ \vec{r'}(t)=\vec{r}(t)-\vec{V} t \]となります。丁度、同じ物体の運動を、地上からと、速度 \( \vec{V} \) で動いている電車から見た場合の、座標の関係です。これを「ガリレイ変換」と呼びます。なお、地上で「慣性の法則」が成り立つ場合には、この電車の中でも「慣性の法則」が成り立ちます。ガリレイ変換は「慣性の法則が成り立つ座標系=慣性系」間の変換法則になります。この座標変換式を運動方程式に代入すると、\[m
\frac{ d^2\vec{r'}(t) } {dt^2} = \vec{F} (t) \]となり、「変換前と同じ式」になります。つまり、地上からボールを投げると当然「運動方程式」に従って運動しますが、それを、電車から見ても「同じ形の運動方程式」に従うということです。つまり、「運動法則は、地上で見ても、電車から見ても同じ」という性質を持っています。つまり「運動法則は慣性系によらない(慣性の法則が成り立てば、どの座標系でもなりたつ)」となります。どちらも同じ法則が成り立つので、たとえば「地球が止まっているのか、それとも宇宙の中心に対して動いているのか」は、分かりません。そんなこと気にしなくても、「慣性の法則が成り立っている座標系なら」運動の3法則が成り立つ、というのが、便利なところでした。
ところで、電磁法則はどうなのでしょう? Maxwell方程式\[ {\rm div }\vec{D}( \vec{r},t )= \rho ( \vec{r},t ) \] \[ {\rm div }\vec{B}( \vec{r},t )= 0 \]\[ {\rm rot}\vec{E}( \vec{r},t )= - \frac{\partial \vec{B} (\vec{r},t) } {\partial t} \]\[ {\rm rot}\vec{H}( \vec{r},t )= \vec{J} (\vec{r},t) + \frac{\partial \vec{D} (\vec{r},t) } {\partial t} \]にガリレイ変換の式を代入すると....
\[ {\rm div }\vec{D}( \vec{r'},t )= \rho ( \vec{r'},t ) \] \[ {\rm div }\vec{B}( \vec{r'},t )= 0 \]\[ {\rm rot}\vec{E}( \vec{r'},t )= - \frac{\partial \vec{B} (\vec{r'},t) } {\partial t} +{\rm rot}( \vec{V} \times \vec{B}( \vec{r'},t )) \]\[ {\rm rot}\vec{H}( \vec{r'},t )= \vec{J} (\vec{r'},t) + \frac{\partial \vec{D} (\vec{r'},t) } {\partial t} + \rho( \vec{r'},t )\vec{V} - {\rm rot}( \vec{V} \times \vec{D}( \vec{r'},t ))\]となります。これは電磁波が存在することを実証したヘルツという人が最初に計算したのでHeltz方程式と呼ばれています。これは.... Maxwell 方程式と「違う」ことが分かります。つまり、運動の法則は変わらないのに、「電磁法則は、地上で見たときと、電車から見たときで違う」という計算結果になります。つまり「Maxwell方程式が成り立つ慣性系と、成り立たない慣性系」があることになります。本当にそうなのでしょうか?
そのずれを測定すれば.... 地球が宇宙の中心に対してどう動いているいるのか分かるかもしれない!... と多くの人が測定を試みました。ちなみにヘルツ方程式だと光(電磁波は)はボールと同じように早く見えたり遅く見えたりするので、地球の公転運動を利用して、光の速度が変わって見えるのかどうかを(半年以上かけて、地球が逆向きに動くのを利用して)マイケルソンとモーリーでが精密測定をしてみました。測定結果は.... 「なんと光速度は、どんな座標系で見ても変わらない( \( C= 3 \times 10^8 \rm [m/s]\) )」というものでした。
他にも様々な実験が行われましたが、何故か「Maxwell方程式からのずれ」は、(あれば観測できるはずなのに)全く観測できませんでした。電磁力で運動する粒子の運動を見たら、その法則は「慣性系によって違う」のでしょうか? それとも「同じ」なのでしょうか?
この問題は、20世紀初頭(1905年)、アインシュタインにより詳しく検討され、「相対性理論」と呼ばれる枠組みへと発展していきました。
では、今日は、このへんで終わりにし、次回「相対性理論」の概略を紹介します。