14. 近代物理学(量子物理学と量子物理学に基づく自然観と、現在および未来の技術と文明)

14-1. 量子とは

まず、2つのYoutube動画を見てください(後でもう一度提示しますので、最初は気楽に見てください)。

【光の干渉(単一光子)】

https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c

【電子の干渉】

https://www.youtube.com/watch?v=PxNMW4kHr_k

これが「量子」の姿であり、量子とは「数えられるもの」でありかつ「干渉するもの」です.....と、これで終わりでも良いのですが(^^;;.... これが何を意味して、誰がこのような性質に気が付いたのかなど、歴史を踏まえて、解説していきます。


14-2. 光は電磁波である。しかし「個数」という物理量を持つ(=数えられるものである)

19世紀はじめ、トーマス・ヤングが「光は干渉する=波である」ことを実験により実証します(ヤングの干渉実験:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AE%E5%AE%9F%E9%A8%93 )。この実験により光は波動であることが分かりました。そして、19世紀後半、マックスウェルにより「光は電磁波である」ことが理論的に提唱され、その後、様々な実験を通して、単なる論ではなく、光の性質は、全て「電磁波である(=波である)」という形でMaxwell方程式に基づき理解できることが明らかになります。なお前回紹介した光速度の話や(特殊)相対性理論の話も、「光は電磁波である(そしてどの慣性系でも電磁法則=Maxwell方程式が成り立つ)」という話でした。

19世紀終わりころ、光(電磁波)について様々な実験が行われ、金属板に電子をぶつけると「光」が出てくること、特に比較的高電圧を使って高速に電子をぶつけるとのちに「X線」と呼ばれる、波長の短い、透過性の高い光が出てくることも、レントゲンによって発見されました。20世紀初頭、なら「金属板に波長の短い光(X線)を当てたらどうなるか?」を調べたところ、電子が飛び出ることがある、という現象が発見されました。これを光電効果と呼んでいます。レナードが、この光電効果の現象を詳しく調べたところ、とても「奇妙な」性質があることがわかりました。

 ・ 波長が長い光(振動数が小さい光)では、どんなに強い光を当てても電子は出ない(逆に、波長が短い光(振動数が大きい光)では、どんなに弱い光を当てても電子は出る)

 ・ 飛び出る電子の個数は、光の強さに比例している

光を「波(電磁波)」と考えると、強い光は大きな電場になり、物質中の電子に働く力が大きくなるので「強い光を当てれば必ず電子は飛び出すはず」です。詳しくはhttp://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/WYP2005/koudenpamph.html などを参照しても良いでしょう。この矛盾は「光は、個数という物理量を持つ」と考えると説明がつくことに、アインシュタインは気が付きました(\(h\)はプランク定数と呼ばれる定数です)。「1個の」振動数\( \nu \)の光は、エネルギー\( h \nu \)を持ち、光が\(N\) 個集まると、全体のエネルギーは \(N h \nu \) になる。これが「光の強さ」だと捉えよう、という考え方(仮説)です。そして、1個の光が1個の電子を弾き飛ばす、と考えれば、光電効果の現象は全て矛盾なく説明でき、また出てくる電子1個のエネルギーは、光1個のエネルギーから、電子を物質の外に引き出すために使われる仕事Wを引いたものになるはずだから、\(E=h\nu-W\) の関係になるはず( \( h\)は物質によらない定数、\(W\)は物質により決まる定数 )となるはずだと予言しました。ミリカンは光電効果の精密実験をして、確かに振動数\( \nu\)の光から光電効果で出てくる電子のエネルギーは\(E=h\nu-W\)の関係に従うことを、確認しました。

このアインシュタインの仮説を「光量子(こうりょうし)」仮説と呼びます。quantum は quantity(量) という単語を元にした、アインシュタインによる「造語」で、日本語では「量子」と訳されています。光のエネルギーは、ある量(\(h \nu\))を基本として、その整数倍しか取れない、だから基本の「もの」を「光量子」と名付け、光は集合体であると捉える、という考え方が光量子仮説です。なお、小さな粒(粒子)も、1個2個と「数えられる」という性質を持ちます。光量子も粒子も「個数という量を持つ」という意味では似ているかもしれません。これを光量子の持つ粒子性(粒子と同じように数えられる)と呼ぶ場合があります。一方で光量子は粒子ではありません。粒子は分かれることがありませんし「干渉」という現象も起こしません。干渉の現象を起こすのは「波」だけです。またヤング実験により光は干渉することが確認されていますから「光量子」は「波のように干渉する」性質を持ちます。これを光量子の波動性と呼びます。現在では1個の光を「フォトン(photon)」と呼ぶ場合が多いです。

アインシュタインの時代には「1つのフォトン」を扱えるほど技術は進展していませんでしたが、現在では「光を弱くしていき、フォトンを1つずつ飛ばす」ことも可能になっています。それが最初に見ていただいた動画です。もう一度見てみましょう

 https://www.youtube.com/watch?v=ImknFucHS_c
は、フォトンを1つずつ飛ばして行ったヤングの干渉実験の動画です。1つのフォトンが波としてふるまい、2つのスリットを同時に通過し、干渉することが「実験的に」示されれています。なお、「独立事象を多数回行ったとき、頻度分布に干渉縞が現れる」ことは、「1回行ったときの、確率に干渉縞が現れる」と解釈することが出来ます。つまり「波として振舞っているのは「確率」と関係した量」ということになります。


余談:

ちなみに... この動画で「ものすごく暗くした時」の光の振る舞い、なんか身近に見ているものと似てると思いませんか? それは... 夜空に輝く星です。星はものすごく遠くにあるため、とても暗く見えます。どのくらい暗いか...というのを光は電磁波(波動)として計算してみると、実は、目の中の網膜にある光を感じる色素分子を反応させるだけのエネルギーを持たないほど暗くなるはずで、暗すぎて夜空の星は、人間の目には見えないはずなのです。しかし実際には見えます。これは暗くなってもフォトンの数が減るだけでフォトン1つのエネルギーが変わらないため、もしフォトンが網膜内の色素分子にあたれば(どんなに弱い光でも)見えるし、色素分子に当たらなければ見えない.... ということが起こります。つまり暗い星は見えたり見えなかったり... つまり「星は瞬く」のです(^^)

夜空の星が瞬いて見える。これが光の粒子性です。そして目でものが見えるのは光電効果と同じ現象が目の中で起こっているからです。


14-3. 電子は個数がある。しかし干渉する。

一方、「電子」は、「電流の担い手」として19世紀末に発見されました。真空中でも電圧を上げれば電流が流れることから「陰極線」が発見され、その実態についての研究が進み、1899年にトムソンの「電荷はある基本電荷の整数倍しか存在しない(電荷の担い手として「電子」)」という実験結果に基づき、陰極線での比電荷の測定と組み合わせて「電子1個の質量、電荷量」が求められました。ところで「光」は電磁波(波動)なのに「個数」がありました。では、個数がある「電子」は、波のような性質を持つのでしょうか? これはド・ブロイが最初に提案した考え方で、1927年に「電子線が干渉縞を作る」ことが観測され、(粒子と思われていた)電子も干渉する、ということが分かりました。

なお現在では「電子1つずつ」飛ばして、干渉実験を行うことが可能です。

https://www.youtube.com/watch?v=PxNMW4kHr_k

この結果を見ると、「フォトンの時と同じ」であることが分かると思います。

つまり、「(干渉するし)電磁波と思っていたものは、粒子のように数えられるものでもある=光量子(フォトン)」「質量もあるし、粒子と思っていた電子は、波のように干渉するものでもある」ということになります。現在では、光や電子だけでなく、「全てのものに、干渉するという性質があり、かつ最小単位があり、個数と言う物理量が存在する」ということが、分っています。このような「現実のもの」の存在形態を「量子」と呼んでいます。現在では量子でない粒子は存在しないし、また量子でない波動も存在しない、と考えられています。

なお、1つの量子の持つエネルギー\( E\)や運動量\(p\)は、振動数\(\nu\)や波長\( \lambda \) と、 \[ E= h \nu \], \[ p= \frac{h} { \lambda} \] の関係で繋がれており、また個数\(N\)は、光や電子線の強度\(I\)(総エネルギー量)と比例します。 \[I ∝ N\] このような「木に竹を接いだような捉え方」が、光や電子のような「極微の世界を理解するには」ひつようであるという認識が、20世紀初頭に得られます。

これを整理して「運動法則」としてまとめたものが「量子力学」です。これは数学的には様々な表し方があるのですが(その数学も20世紀初頭に生まれました)、比較的わかりやすいシュレディンガーが定式化した量子力学を紹介します。


14-4. 量子力学

シュレディンガーは、「1個の電子」の運動は、「1つの波動関数\( \psi(r,t) \)」で表せると考え、その波動関数は、次の方程式、 \[ i \hbar \frac{\partial \psi  }{\partial  t} = \{ -\frac{\hbar^2 }{2 m} \Delta +U(r) \} \psi\] に従う、と提唱しました。これをシュレディンガー方程式と言います。

細かい話は飛ばしますが、この式は、ニュートン力学の話、運動量\(p=m \upsilon \)、エネルギー\(E=\frac{1}{2}m \upsilon^2 +U(r) \)、の2つの式から速度\(\upsilon \)を消去して、エネルギーと運動量の関係を求めると、\[ E=\frac{1}{2m} p^2 + U(r) \] となりますが、これを\( E= h \nu ,  p= \frac{h} { \lambda} \)の式を利用して「波動の言葉」に変換したようなものになっています。

「1個の電子(量子)」を考える時点で「粒子性」が取り込まれ、1個の量子の運動が波として干渉するのだから、これを「波を表す関数=波動関数」で表現することにより「波動性」が取り込まれる、という枠組みです。そして波自体は観測されず、波の強度に当たる量\( | \psi(r,t) |^2  \)が、その時刻その場所に電子が見いだされる「確率密度」になる、という解釈をします(統計解釈)。つまり、この枠組みでは「1つの電子の運動を確定的に予言することはできす、確率的に予言できるだけ」ということになります(過去や現在~未来が1通りに予言できる古典物理学とはここが大きく異なります)。なんか釈然としないかもしれませんが、少なくとも「実験事実」はこれで説明が付きます。

なお、単に確定的に予言できないだけでなく、例えばヤングの干渉実験のような場合、「1個の量子」は「どちらかの穴を通っているのではなく、両方の穴を(波として)同時に通っている(だから干渉という現象が起きる)」という解釈になります。これを「右の穴を通っている状態と、左の穴を通っている状態が、重ね合わさっている」と、表現します。これも、古典的には理解できない振る舞いですが、この「重ね合わせ」という状態を利用することにより「絶対に盗聴できない暗号通信(量子暗号通信)」や「複数の演算を同時に行う計算機(量子コンピュータ)」等の開発が、現在進められており、多分、近未来の技術になり、近未来の文明の基幹になる可能性が」高いです。

また、この式を解くことにより、「原子内での電子の運動」も正しく記述でき、また、複数の原子核がある中での電子の運動を解くことにより「化学結合」も完全に理解することが可能になりました。また、半導体素子の性質も量子力学で理解出来るものですし、蛍光灯(蛍光物質)や太陽電池や発光ダイオードの原理も量子力学無しでは、全く説明できません。また現在ではもの式に基づき「どのような形の分子が存在し、その分子はどのような働きをするか」を高速なコンピュータで計算することができます(分子動力学)。新しい物質を作ったり新しい薬をつくるとき、そのような計算が普通に行われ、コンピュータの中で計算で役に立ちそうな物質(薬などを含む)を探すということが、普通に行われています。


14-5. 相対論的量子力学、量子電磁力学...

シュレディンガー方程式は、ニュートンの運動法則のエネルギーと運動量の関係に似ているものなので、相対性理論における時間空間の変換性を満たしていません。そこで、相対性理論と矛盾しない量子力学の基本方程式が模索され、ディラックにより「ディラック方程式」が発見されました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E6%96%B9%E7%A8%8B%E5%BC%8F

この方程式での波動関数は「4つの関数を縦に並べたもの」になり、2種類は「電子の自転(スピン)」に対応していることが示され、今まで(木に竹を接いだような形で記述されていた電子の自転(があるから電子は磁石になる)が、自然に記述されるようになります。しかし、その2種類が2種類ずつある(だから全部で4つ)ことは、当初理論の欠陥だと思われていました。しかしディラックは欠陥ではなく「電子と同じような、別の物がある事を意味しているのではないか?」と考えます。それが「陽電子(positron)」です。陽電子は電子とよく似たものですが、電荷だけが正電荷で、そして「真空(=何もない空間)」に大きなエネルギーを集中させると、そこから「電子」と「陽電子」がペアで生まれることも理論的に見出しました。

1932年、アンダーソンによって、宇宙から地球に降り注ぐ放射線(宇宙線)の中から「電子-陽電子の対生成」の現象が発見され、「無(真空)から、エネルギーによって、物質が生まれる」ことが立証されます。

この考え方は電子のみならず様々な物質(陽子、中性子...など)についても成り立ち、全ての「物質」には「反物質」と言われるものが存在することが現在までに確認されています。

また、光が量子であるなら電磁法則(maxwell方程式)自体も書き換える必要が出てきます。そこで、電子(電荷をもつもの)と電磁場(電磁力を伝えるもの)を統一した枠組みで記述することが試みられます。これが「量子電磁力学(Quantum Electro Dinamics: QED)」と呼ばれる理論です。この理論では、電子も光も「量子」として扱われます。当初、この理論は。計算すると様々な量が無限大とか「ナンセンスな値」になり、理論としての信ぴょう性が疑われていましたが、朝永振一郎(日本2番目のノーベル賞受賞者)らにより、無限大の原因の分類と解析が行われ、処方箋が確立し(くりこみ理論)、QEDは完成した。この理論では、電磁場は電磁波の集まりとして記述され、電磁波はすなわち光つまり光量子になります。なお「全てが量子であるという認識を前提としている場合」には、粒子という言葉は量子と読み替えられます。そういう言葉使いで、光量子の事を光子呼ぶこともあります。電子(負電荷)と電子(負電荷)が反発する現象は、2つの電子が光子を交換して相互作用(力)を引き起こす、と記述されます。

なお、このような力の捉え方は他の力に対しても有効ではないかと湯川秀樹が気が付き、陽子や中性子を結び付けている力の原因となる量子が存在するはず(中間子理論)と考え、その予言通り、電子の200倍くらい重い素粒子(パイ中間子)が発見され、日本で最初のノーベル賞受賞者になりました(戦後間もなくの時期です)。

現在では、電磁場が光子に対応し、同じように様々な力にはそれに対応する粒子(ゲージ粒子と総称されます)があると考えられています。


14-5. まとめと予告

光や電子や、その他全ての基本的な物体は、「量子」という存在形態です。量子とは粒子のように「数えられるもの(個数という物理量を持つ)」であり、1つの量子は波動として振る舞い「干渉」するという性質を持ち、多数の量子の運動を見ると、頻度分布として「干渉縞」が観測できます。独立な試行を多数回行った時の頻度分布に干渉縞が現れることは、1個の量子の運動では「確率」として干渉縞が現れると解釈できます。1個の量子の運動は「波動関数」で表され、波動関数の絶対値の2乗が、その時刻その位置に量子が存在する確率密度になります。

1つの量子の運動が波動で表され干渉するということは、例えばダブルスリットの場合には、1つの量子が2つの穴を(波動として)同時に通り抜ける、あるいは、右の穴を通り抜ける運動と左を通り抜ける運動が、同時に、起こることを意味します。しかし観測される時には、常に1つの場所に1つだけ観測されます。

その運動法則は「量子力学」と呼ばれています。また、相対論と矛盾しない形で量子力学を作ると、通常の物質と対をなす「反物質」という解が自動的に得られます。反物質は実際に観測され、真空(無)に大きなエネルギーが集中すると、物質と反物質が同量ずつ生まれます。これを対生成と呼んでいます。

では、この世界の「物質」はどのように生まれたのでしょうか? もし対生成で生まれたのなら、通常の物質と同量の反物質があるはずです。しかし現実には反物質はほとんどなく、我々の世界は「物質」に満ちています。分かればわかるほど、(なぜこの世の中には物質が溢れているのか?)というような「当たり前」に思っていたことが疑問に思えてきます。

今回はこの辺までにし、次回最終回に「現在疑問に思われていること」をいろいろ紹介したいと思います。でその次が期末試験ですね。期末試験では、「この授業を通して皆さんが学んだこと、感じたことなどを、約1時間程度の時間で書ける程度の分量で述べてもらう」ことを想定しています。詳しくは次回説明します。