1. 数学(Mathematics)とは何か?

1-1. 算数とは? 昔の算数、現在の算数、未来の算数

「算数」って何で、「数学」って何でしょう? 多分小学生から中学生になるころに学んだであろう(そして本来中学校に入る前に知っておくべき)ことから復習しておきます(^^;

算数って日本独自の科目で、江戸時代の「寺小屋でのそろばん教育」を基に、明治時代に当時の政府は(新しい時代の)日本の教育を西洋流(mathematics流)にしたかったようですが、当時の日本には教えられる教員も殆どおらず、特に初等教育の教員は「寺小屋でのそろばん」を教えることができても、筆算を教えることが出来る教員を養成するには長い年月が必要でした。そこで小学校では、「寺小屋教育のそろばん」と西洋数学の「筆算」と取り混ぜた教育が行われます。そろばんは「生活に必要な計算を、正しく速く行う技量」を養うものであり「解き方(公式等)」を覚えて、何度も繰り返す、ということが主になります。掛け算は足し算の繰り返しですから時間をかければ足し算だけで済むはずですが、「掛け算九九を覚える」ことにより、飛躍的に計算が早くなりますから、小学校で九九を「覚え」させます。なお「割り算九九」というのもあります。これは、そろばんで速く割り算を行うには覚えておくことが必須のもので「そろばんの時代には、掛け算九九だけでなく、割り算九九も覚えることが必須」でした。

その後、そろばんより筆算の方が覚えることが少なく効率的に計算ができるため、数的な初等教育は全面的に「そろばん」から「筆算」に変化し、「掛け算九九」は(筆算でも)実用的であるが、「割り算九九は(筆算では)実用的ではない(掛け算九九を使って筆算で割り算を行う)」という理由で、「割り算九九」は小学校教育からは消えていきます。しかし「そろばんを計算のための道具として使う人達」は、割り算九九も当然覚えて使っていました。そろばん教育が実質的に消えるのは、だいぶ経ってから(電卓が生まれ、普及してから)です。

このように「算数」の内容は、計算の為の道具(手法)により変化してきました。

その後、コンピュータが発明され、1970年代になると、電卓も普及し、個人用コンピュータ(PC)や表計算ソフトも生まれ、その後、日常生活や一般社会においては「そろばんも実用的でないし、筆算も(大量の計算が必要な場面では)実用的ではない」時代になります。1970年代以降は、コンピュータや電卓を適切に利用して、生活や実務に必要な大量の計算を、正確にかつ高速に行う能力(プログラミング能力もその一部)が重要な時代になっており、先進国では、そのような時代の変化に対応した教育がなされていますが、日本の算数教育は、ようやくコンピュータ利用とかプログラミング教育とか取り入れ始めようという段階で、現代文明の置かれている現状に全く追いついておらず、むしろ中学受験(受験産業の利益)名目で、時代の流れとは真逆の方向(特定の計算でしか役に立たない、鶴亀算などの和算由来の計算方法などを、しつこく教える、40年以上遅れた方向)に向かっているようです(^^;


1-2. 数学(Mathematics)とは? Mathematicsの意味と意義

まず、数学とは何かを知るうえで、英語の「Mathematics」の意味を「語源」を含めて、Web等で自分で調べてみてください(ここで、スマホかPCでネットに繋ぎ、例えばキーワード「Mathematics 語源 意味」で検索してください。自分で調べ自分で学ぶ=自学自習(自学自修)は、本来、大学教育の基本ですし、大学は本来、自学自習の場です)。

Mathematics の本当の(本来の)意味、分かりましたか?

元々は、音楽や天文学もMathematicsです。例えば音楽に興味ある方でしたら、音階の1オクターブは、振動数2倍の意味であり、平均律が振動数の対数による1オクターブの12分割(単純な整数比にならない)、純正律は振動数の整数比(調和した音階になる)、ということを知っていると思います。如何に調和の取れた音を奏でるか、と言う問題は、古代からそのような「Mathematics」の問題でしたし、和音なども同様です。古代においては「学ぶべきもの(=教科)」が、Mathematicsの意味でしたし、現在でも少なくとも古代ギリシャ文明から発展した文化圏では(西洋文化圏では)、そのような意味で「Mathematics」という用語を使っています。なお日本では明治時代に「Mathematics」訳語として中国で使われていた「数学」の用語を割り当てました。ですから、つまり本来の意味では、数学(Mathematics)は、「学問」とほぼ同義語であり、学校(大学等)で学ぶべきものは、本来、全てMathematicsです。数学は、計算技術の寄せ集めでも数の学問でもなく、「論理の学問」へと(西洋では、古代ギリシャ時代には)進化を遂げていきました。それが西洋文明の中心部分です。

ところで、中国や日本(東洋)でも、古くから「算数」「算術」「和算」等の計算術が生まれていました。これは「計算技術の寄せ集め」で、しばしば「そろばん」とも言われます(もちろん、そろばんは計算をするための道具です)。ここでは、それらを便宜的に「算数」と呼んでおきましょう。16世紀に、西洋のMathematics(論理の学問)が中国(明の時代)に伝わり東洋でも「数学」が生まれます。古代中国の計算法は、ほぼ全て西洋流の計算方法になっていきますが、その時代の中国(明)ではMathematics(数学)の本来の意味や価値が理解できず、あまり普及はしなかったようです。なお余談ですが、役人が数学を学ばない(科挙の試験に算術・数学分野を含まない)という異様な風習の原点はその時代の中国(明)にあると言えるかもしれませんし、これが現在の日本に残っている「理系・文系という思想」のはじまりかもしれません。

日本では、先に述べたように、明治時代まで、中国(明~清)の中国数学を手本とした「日本独自の和算(あるいは、そろばん)」が寺小屋でも教えられ「実用」でも用いらていました。明治時代、進んだ西洋の文明に追いつくため、日本の教育制度にに西洋の「Mathematics」を導入し「数学」という科目及び学問分野を作りました。(旧制)小学校(尋常小学校・高等小学校)では、西洋由来の筆算を取り入れながらも、寺小屋時代のそろばん教育など和算由来の内容も継承した「算数」、(旧制)中学校以上では西洋文明に基づく「数学(=Mathematics)」の科目が作られました。戦後(1950年頃)、日本では、(新制)小学校では、筆算を中心にしながらも部分的に和算(そろばん)由来の計算法も継承した「算数(=算術=計算技術の寄せ集め)」を教え、中学校から数学と言う科目名で「算術と数学(論理の学問)のミックス」、高校以上では本来「数学(論理の学問)」を学ぶようになりました(少なくとも教科書はその前提で書かれています)。

なお、古代の数学(古代ギリシャ時代以前の西洋数学、19世紀までの中国数学、明治以前の和算等)は、「計算して答えを求めること」が主たる目的で、現在の数学(古代ギリシャ時代以後の西洋数学、20世紀以後の中国数学、明治以降の日本の数学等)は「論理構造を明らかにする」ことが目的であり、論理構造を明らかにすることにより結果的に計算もできるし答えも自然に求まる、という違いがあります。古代数学(算数)は「公式を見つけ、覚えること(解くことが目的)」が中心で、現代数学は「証明(論理が目的)」が中心と言えば、わかりやすいかもしれません。

なお、「論理の学問としての数学」を活用し、文明を発展させるためには、膨大で面倒な計算を行う技量が必要でしたので、「まずは計算(算数)」、という時代があった(あるいは教育課程としてそのように組む)ことは自然と思います。

では現在は?

最初に述べたように、「計算をするための道具」が大きく変化しています。大昔は「そろばん」を使っていましたが、20世紀後半以後は「コンピュータ」を使う時代です。その変化のため「生活に役立つ」内容が大きく変化しています。たとえば「割り算九九」を覚えることなど、そろばんの時代には必須でしたが、筆算やコンピュータを使う現在では必要無いですし、多分「割り算九九の存在すら知らない人」も多いのではないかと思います(^^; 「計算=算数」は、コンピュータの登場により大きく変わった部分(変化すべき部分)であり、特に、日本の膠着化した教育制度では全く対応できていない分野でしょう。なお中国では、20世紀に入り西洋流の「(Mathematics)数学」が導入され普及し、それにともない一気に中国は「文明化」し、現在ではハイテク文明をけん引する国にまで発展しています。現代の中国では、(明の時代の)日本で言ういわゆる「文系」は存在しません。

「公式や解法を覚えて、それに当てはめて答えを出す」こと(つまり算数)は、既に、いくらでも簡単に機械(コンピュータ)で出来る時代です。ですから現在実用的に重要なのは、「概念や論理を掴むこと(数学)」、その上で必要があれば「コンピュータに計算をやらせる方法を知る(その技量を持つ)」ことが大切であり、しかもこれが、現在?近未来にわたって「実用的」な能力です。決して「コンピュータで代替できる計算の仕方(算数)を覚えて、速く正確に計算できるよう反復練習をすること」ではありません。

しかし... 皆さんは、そのような観点で中学や高校の「数学」を学んできましたか?(^^;; 本当は、小学生や中学生の時代に、このようなことを知り「大人になれば(コンピュータを使えば)使わないし必要無い算数(計算技術)」より、「数や量の概念形成、計算法則に潜む論理関係、多彩な現象の(数や量を用いた)抽象化」等の本当の内容の重要性に気づき、そのような「大人になっても現実社会で使える概念を習得」する方が、ずっと大切であり、しかも面白くて簡単なのですが... 実際には、安易なテストでは論理力や概念理解を問うより計算技術を評価することの方がずっと容易なので(よほど工夫して作らないと、安易に作る試験問題はそのよう問題になります)、中学校から高校でも、受験対策として「数学を、数学として学ばずに、算数として学んでいる」生徒が増えているように思います(^^; 数学の科目を「算数として」教えているような人も多くいますから...


1-3.「計算(算数)」を行う現代的な道具

 では、現在の計算のための道具を、ちょっと見ていきましょう。誤解はないと思いますが、電卓やPCの表計算という道具は、1970年代に生まれたものですので、一般社会では、そういう道具を使うのは、現代的と言うよりは、既に50年前から当たり前の「古典的道具」です。では21世紀に入り既に20年も経った「現代」は、どういう時代でどのような道具があるかを紹介しましょう。

現在では、簡単だけど面倒な計算を行う必要があるときには、普通、「コンピュータ(PC等)」を使います。「計算」を行うソフトウエアには、有料のもの無料のものを含めて、現在では様々な種類の様々なものがあります(例えば、専門家向けの高度なものとしては、Mathematica,Maple等のソフトウエア,またWolframAlpha等のWebがービスもあり、これらは実際の数学研究や数学を使う研究活動等に、広く使われています)。ここでは「世界中の誰でも、PCとネット環境があれば、無料で自分のPCに入れて、簡単に使えるソフトウエア」である、Maxima(wxMaxima)を紹介しておきます。なおこのソフトは演習室PCにも入れてありますので、演習室PCなら、普通にWindowsのスタートメニューのタイル(田:スタートボタンを押して開く)に登録してありますので、そこの[wxMaxima]をクリックして、自由に使って下さい。ここではまず、(何ができるのかを感じ取っていただく為の)デモ動画を紹介します。なお、遠隔授業教材は「通信量無制限の(定額)インタネット接続環境」で見ることをお勧めしますが、初回ですので全員がそのような環境を準備しているか分かりませんので、今回は、利用量に制限のある通信プランのスマートフォンなどで見る場合も想定して、出来るだけ圧縮し、ファイルの大きさ(閲覧に必要な通信量)も明示します。もし閲覧などに不自由感じる方が居れば、申し出てください。最大限配慮します。

---Maxima入門動画紹介(約140MB:15分)---

なおwxMaximaの使い方は(および自分のPCにも入れたい人はインストールの仕方も)、全てWebで、いくつも公開されていますから「wxMaxima 使い方」とか「Maxima 使い方」とか、「wxMaxima 入門」とか「Maxima 入門」等のキーワードで調べて下さい。検索で適切な参考資料がうまく見つからない、あるいは本気で使いたいけど資料を探し出せない、という方は、例えば、「Maxima入門」http://maxima.zuisei.net/とか、参考にしても良いでしょう。なお大学生向きの(大学の授業で使っている)資料もいろいろあります。近場では、例えば、高知大学の先生も、高知大学での授業資料として「教科書的な資料」を公開しているようで、例えば「高知大学」http://www.kochi-u.ac.jpから、[理工学部][数学物理学科][数学コースHPへ][教員紹介][土基善文][講義関連のページ][2018年度1学期][maxima manual(pdf)]とたどると、http://www.math.kochi-u.ac.jp/docky/kogi/kogi2018_1/keisankisuugaku/maxima/maxima101.pdfがあります(なおこのファイルは、キーワード「Maxima 入門」でgoogle検索でも出てくるようですが、正規の大学のトップページから普通にリンクで辿れますので、たぶん非公開とか隠しページでは無いでしょう。なお、本学の「数学入門」の授業は、このソフトを使いこなすことが目的ではありませんので、「Maxima というソフトが有り、紹介した資料などを参考に、ちょっと自学自習すれば、直ぐに、同じあるいは似たような計算は、全部コンピュータで、簡単にできる、ということを知る」というレベルでも、本学の「共通教育科目、数学入門の授業としては」一向に構いません(^^;) その事を「知らない」と「知っている」では、多分「計算問題を解く(=算数)」ということに対する価値観が変わってくると思います。それが「数学入門」の授業で、皆さんに学んでほしいことの主要な内容ですから。今の時代、この事さえ知っていれば、必要なときにはネット上の情報を活用した自学自習でいくらでも現代的な道具を使い計算する能力を身につけることができますが、そのことを知らなければ(太古の文明の世界で生きていれば)、永遠に何も学べず、何もできないままですから、その差は、とても大きいでしょう。特に、今の段階では、ここまでに述べた「計算(算数)は、人間がするまでもなく、いくらでも、機械で簡単にできる(それだけのものでしか無い)」ということを、具体的に実感していただけたら、それだけで十分と思います。


1-4. 何の為に何を学ぶべきか?

「計算(算数)」は機械に任せるとして... では「数学(Mathematics)」は、どのような学問で、特に「(狭い意味での)数学を専門としない人」は何のために、そこから何を学ぶべきなのでしょう?

それは「一見、まるっきり別物と思われる事象の間に、深いつながりがある」ということを見出す「論理性」です。抽象化と言ってもいいかもしれません。そもそも人は、りんごやみかん魚と言った「全くの別物」の間に「個数」という「共通の属性」があることを見出し、それを「数」という概念で取り扱う手法を発明しました。これは後に物々交換による時代を経て、貨幣経済を生み出し、それが流通を促し、文明を生み出す力となりました。数だけでなく、図形についても同様で、一見別物と思われる図形の性質が、実は論理的につながっているということに気がついたのは、古代ギリシャ時代、ユークリッド学派の学者たちです。そして、ほとんど全ての図形の性質が、たった5つの性質(公理と呼ばれます)を認めるだけで、全てそこから論理的に導けるという「法則の論理性と、体系化」を発見します。これが「ユークリッド原論」と呼ばれる書物で、内容は幾何学(図形の学問)ですが、その後、このように一見別物に見える多様な法則を論理的につなげて体系化していくことが、「全ての学問の基本(手本)」として位置付けられていきます。つまり学問とは、雑多な知識を覚えることではなく、一見全く別物に見える事象を論理でつなぎ合わせて理解していき、全体の仕組みを解明していくことが「目標」とされるようになりました(それが数学=Mathematicsです)。これが近代?現代の学問のあり方で、その雛形を最初に示したのがユークリッド原論と言っても良いと思います。歴史的には、実用的な計算のための技術(算法とか算数とか)の発展と組み合わさって複雑に変遷を遂げていますが、「全くの別物に思える事象の間の関係の発見」は、視野を広げることにつながります。視野が広がれば、今まで見えなかったものが見えるようになりますから、見える世界も変わりますし、様々な問題に対する解決策見出すことや、今まで不可能と思っていたことを可能にしていく力にもなります。

しかし、その論理性を「本当の意味で理解しよう」とすると、かなり高度な論理能力が要求されますので、誰でも短期間で簡単に習得できるわけではありません。最初、発見されたり発明されたものは「大雑把なアイデア」であり、誤りであったり厳密性に掛ける場合もあります。その後、誤りや論理的な穴が見つかると、それを訂正し論理の穴も埋めるように、より厳密な論理化がされていきます。最終的に、それらが積み重なるにつれ、頑強で完全ではあるけれど、あまりに完全すぎて、何を考えて何を目的としているのかが、見えにくくなる場合もあります。それを専門とする分野を目指す人達とか、新たな文明の構築に直接携わる仕事をしていこうという人達ならば、有無を言わさず「頑張って勉強して全部理解してね(^^)」と冷たく言う事柄ですが...まあ、誰もが「新たな文明の構築に直接携わる仕事をしていこうとしている人達」だけではありませんから....(^^;

そこで、この講義では、「完成されたものとしての数学」を紹介するのではなく、「それを考えた人」の視点を紹介し、どのように「一見、全く無関係と思われたことの間に、関係が見出されたのか?」「そのことが何の役に立ったのか」を中心にして、「数学入門」の話を紹介していくつもりです。

ですから、皆さんに紹介する範囲内では、過度な論理的一貫性よりも、「最初に考えた人のイメージ、感覚」を元に、「無関係と思われた事柄の間に関連を見出す」こと、そして「その関係を知ることにより広がる世界」を中心にして、数学的な見方や考え方を紹介していきたいと思います。

また繰り返しになりますが、このような形で授業を行いますので、本科目の受講にあたって「高校の数学(算数?(^^;)が得意だったか不得意だったか?」は、あまり関係ありません。むしろ「高校の数学は殆ど分からなかった(T_T)」という学生さんを念頭に置いて授業を進めます。そして最後に「いつのまにか、想像していたより遥かに高い視点に立って、高校の範囲では解けないような微積分の計算問題も、簡単にいくらでも(現代的道具を使って)解くことができる自分になっている」ことに気が付き、そのことを通して「数学(Mathematics)を学ぶ意味や意義(学問を学ぶ意味や意義)」を実感していただけたら良いと思います(これがこの授業の目的であり、最終目標です)。

なお、数学(Mathematics)の範囲は極めて広いですが、数学と言うものを知るために、まず「微分積分学」を紹介しましょう。ちなみに微積分学を学ぶと「変化、過去・現在・未来」等に対する見方や扱う技量が変わります。そして残念ですが、本学の教育課程では、4年間の在学期間のうち、数学関係の話を学べる時間は、半期1コマしかありませんので、皆さんに本学の授業として数学の話を紹介できるのは、ここまでです(それ以上は、本学の教育課程にはありませんので、必要があれば自学自修になります)。なお、余談ですが、大学生としての十分な知性を獲得したいのであれば、本来は、微分積分以外にも線形代数学(ベクトルと行列)は学んでおいたほうが良いでしょう(たぶん皆さんが受けた時期の「高校数学の課程」だけ、ベクトルはありますが「行列」の内容が除外されています。ちなみに、その前までとその次の高校数学では、「行列」の内容も必須になっています)。なお、線形代数学を学ぶと「数や量(データ)の関係が図形として視覚的に見えてきます」ので、今後の文明社会で重要になる、「多数のデータを扱いデータに基づき判断をしていく分野(事実に基づいた学問)の学習」とか、「現代的なAI(人工知能)の基本的な仕組みの理解のための学習とか、AIを効果的に利用する為の学習」をしたいのであれば、ある程度の線形代数学は必須の学問(素養)になります。そして現在?近い将来「専門分野を問わず、これらの事(データサイエンスやAIおよびそれらを理解するために必要な数理科学)を学ぶことを、日本の全大学において必修化する」予定であることは、新聞などでも報道されていますので、大学教育に関心のある皆さんであれば、多分ご存知のことと思いますので、その時代になったときに「時代遅れでない、その時代の大学生(あるいは大卒)としての十分な知性を身に着けたければ」という意味です。なお、この授業で「数学(学問)の学び方」を習得すれば、その後で「完全に自学自習で線形代数学を学ぶ」ことも、それほど難しくはない、ということが、わかるかもしれません。


1-5. 微分積分学とは何か?

「前置き」はこの辺にして... そろそろ本題に入っていきましょう。さて、皆さんは高校で「微分・積分」という言葉を聞いたことがあるはずです。では質問です。

「微分って何ですか? 積分って何ですか?」

まず、この問いに、微積分の公式を答えるのは「非論理的」であり論外である、ということくらいは、(大学生なら)何も言わなくても、気が付く(気が付いてほしい(^^;)と思います。微分とは何をすることか?つまり「微分という言葉の定義」および「積分と言う言葉の定義」の質問ですから、「 \( x^2 \) の微分は \( 2x \) (公式)」とか、そういうことを聞いているのではありませんよね。公式をいくら覚えても「それが何なのか?」を知らなければ計算する意味も無いですし、(試験問題(=クイズ問題?)を解く以外に)実社会・実生活などで使うこともできません(なお、自分が使えないから「実生活では使わないし役に立たない」 と思ったらそれも多分誤りで、後で説明するように、実際には、実社会や実生活も、微積分学で溢れています)。

次回から、ゆっくりと順を追って説明していきますので、まずは予告編として、次の動画を、気楽にさらっと見ておいてください。今回完全に理解する必要はありませんし、数回後にまたここに帰ってきます(何回か見て、そのときに完全にこの内容が理解できれば良いと思います)。

---微分・積分 動画(250MB45分)---

動画の内容をまとめると、

1回動画を見ただけで、本質的な内容を掴める方が多いと思いますが、全員が「完璧に」理解出来るかどうかは...??(^^; もし全員が完璧に理解できるなら、次回はもっと先に進んでも良いのですが...「ある程度理解できた」人が多いとは思いますが、いろいろ疑問に思うこともあるかもしれませんね。

そこで次回から数回に渡り、皆さんの質問や疑問を踏まえて、この動画の内容を、誰が何のためにこのような数学を作った(発明した)のかを中心に、定理の証明や公式の導出や利用の仕方などを、さらっと整理し(ここまでは「高校数学の復習的な範囲」で、助走)、ExcelやMaxima(数式処理システム)を使った「具体的な計算の仕方」なども含めて詳しく解説し、この内容の「深い理解」と「道具を使った高度な計算能力の獲得(ここから、高校数学の範囲を超えていきます)」を目指していきたいと思います。この段階では、式などを丸暗記するのではなく「なるほど、と感じ、当たり前に思える感覚」になることが目的です。ちなみに公式等は、人間が覚えるものではなく「必要があれば見れば良いし、見ながら間違えなくコンピュータに入力するもの」という、現代的センスになれれば良いですね。その段階で(数回後)もう一度、この動画を見直してみましょう。そのときに「完全に理解する」というのがどういうことなのかわかると思います。

そしてその次から、微積分学の実用的な応用例なども紹介した上で、「微積分の概念を知らなければ想像すら出来ない、未知の世界(複素関数の世界:高校数学では想像もできない大学数学の世界)」を紹介していきます。その時点で「(自分の)視野の広がり」を感じていただければ良いと思っています。まあ、関係した小説や映画の話題としてなら「博士の愛した数式(\( e^{i \pi} +1=0\) )」などもありますが... この授業で正しいことを学んだ上でそのような映画を見ると、また面白いかもしれませんね(^^)

では、今日は初回ですので、このへんで終わります。

なお、疑問点などは、時間外学習で整理し、(毎回)次の授業の最初に質問するようにしてください(遠隔の場合には、次の授業までに毎回のレポートとして、質問するようにしてください)。