10. 指数関数のテイラー展開と、指数関数の関数論的な再定義

では前回の復習から。

10.1 指数関数 \(e^x\) のテイラー展開

 前に指数関数の微分の公式\( \frac{d}{dx} e^x= e^x \)を紹介しましたが、その時は「指数関数とは何か?」の説明としていませんでした。ただし「微分しても変わらない」という特徴を持ちますので、この「微分して変わらない」という性質に注目し、その関数を「テイラー展開の形で」求めてみます。そのような関数を\( \exp(x) \) とおきます。この関数に要請する性質は、

1) \(\exp(0) = 1\)

2) \( \frac{d}{dx} \exp(x)= \exp(x) \)

だけです。この関数を「多項式の形で」具合的に求めてください、という、一見無茶苦茶に見える問題です(^^;;


では、求めていきましょう。\( f(x)=\exp(x) \) と置くと、\( f(0)=\exp(0)=1 \)です。また、微分しても変わらないということは、2階微分しても3階微分しても、一般に\(n\)階微分しても変わらないということになるので、\( f^{(n)}(x)=\exp(x) \)になります。すると、\( f^{(n)}(0)=\exp(0)=1 \)ですから、多項式の係数は、ここから全て求められます。

\[ f(x)= \sum_{k=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \] \[ =\sum_{n=0}^{\infty} { \frac{1}{n!} x^n} \]\[ = \frac{1}{0!} + \frac{1}{1!}x + \frac{1}{2!} x^2+ \frac{1}{3!} x^3+ ....\]\[ = 1 + x + \frac{1}{2} x^2+ \frac{1}{3 \cdot 2} x^3+ ....\]

となります。つまり、

\[ \exp(x)= \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{1}{n!} x^n \]

となります。

ちなみに、

 \[ \exp(1)  =\sum_{n=0}^{\infty} { \frac{1}{n!} } = 1+1+ 1/2 + 1/6 + ..... = 2.71828.... \]

となります。この値を\(e\) と書き、自然対数の底とか、ネイピア数とかオイラー数とか呼ばれています。


10.2 指数関数の定義

中学校で、「aをn回掛ける」ということを、\(a^n\)と書く、という形で「指数」が導入されました。しかしこの考え方(定義)だと、nは自然数しか取れません。その後、指数演算の法則(指数法則)を使う前提で、nは整数(負の値を含む)に拡張され、高校では、同じく指数法則にしたがうという形でnを有理数にまで拡張しています。しかし、無理数への拡張はこの方法ではできません。つまり\( a^x \) という関数は、高校数学の範囲まででは、完全には定義できず、ごまかしています。

ところで、ここで、1)2) の性質だけから定義した関数 \(\exp(x) \) はどうでしょう? これは単なる多項式の計算(加減乗除の無限回の組み合わせ)ですから、\(x \) は、加減乗除の計算ができるものであれば、自然数でも、整数(負の数)でも、有理数でも、無理数でも構いません。ですから、ここで求めた\( \exp(x) \) 関数 で、指数演算が定義できれば、厳密でかつ意味も分かりやすくなると思いませんか?? これが「関数論」の考え方です。では、ここで求めた\( \exp(x) \)が、それまでに教わってきた指数演算としての\( e^x \)とどのような関係になるのか?



10.3 「\(\exp(x)\) 無限多項式」と「\(e^x\)」 の対応、指数法則

高校までの方法では、指数関数は、まず、\(e^n\)は、\(e\) を \(n\) 回掛ける、つまり、\( e^2=e \cdot e \)のように「 \(n\)が自然数の時」に定義し、次に指数法則「\(e^a \cdot e^b = e^{a+b}\)」を用いて、a,bが自然数だけでなく負の数(整数)にまで拡張していきます。また、指数法則は「\(e^a \cdot e^a = e^{a + a}\)」つまり、\[ (e^a)^2 = e^{2 a} \]となるので、これを繰り返し、一般に \[ (e^a)^b = e^{ab} \] を得ることができます。この式が、a,bが任意の整数について成り立つと仮定し(拡張解釈し)、指数部が有理数の場合\[ (e^{-a})^b = e^{b/a} \]という形で定義することにより、指数部が「任意の有理数」について指数演算を定義します。次に、指数関数が「連続関数」であると要請すれば、任意の無理数の近傍に有理数があるので、実数に拡張しても良いだろうという論理で「指数関数」が導入されます。つまり、高校流の指数関数を構築するうえで使っている法則は、

1) \(n\)が自然数の時、\(e^n=e \cdot e \cdot ...\cdot e \cdot e \)(\(n\)回掛ける)

2) \( e^{(a+b)}=e^a \cdot e^b \) (指数法則)

3) e(ネイピア数)の値を定義する( \( \frac{d}{dx} e^x = e^x  \) となるe の値を採用する(他の値だと、係数が残る))。

だけから(1通りに)構成されています。


すると、もし、

1) \(n\)が自然数の時、\(\exp(n)= \exp(1) \cdot \exp(1)  \cdot ...\cdot \exp(1)  \cdot \exp(1)  \) ( \(\exp(1)\) を \(n\)回掛ける)

2) \( \exp(a+b)=\exp(a) \cdot \exp(b)\) (指数法則)

3) \(e=\exp(1)\) (ちなみに、( \( \frac{d}{dx} \exp(x)  = \exp(x) となっている \))

が成り立てば、( \(e^xが定義されている\) )任意の有理数 \(x\) に対して、\( e^x = \exp(x) \) であることが、証明されます。 


では、順に証明していきましょう。

もし2) が成り立てば、1) は成り立ちなます。理由は、

\( \exp(2) = \exp(1+1) = \exp(1) \cdot  \exp(1) \)

\( \exp(3) = \exp(1+2) = \exp(1) \cdot \exp(2) =   \exp(1) \cdot \exp(1) \cdot \exp(1) \)

...


ということです。そこで、2)が成り立てば、1)も成り立ち、exp(x)は、指数演算と同じ性質をもち、さらに「微分しても変わらない(余分な定数が出てこない)ように、\(e\)の値を定める」わけですが、\(\exp(x)\)は「最初から、微分しても変わらないように構成されている」ので、1つだけ掛けたもの、つまり\( \exp(1) \)がそのままネイピア数\(e\)に一致します。つまり、「 2)  \( \exp(a+b)=\exp(a) \cdot \exp(b)\) (指数法則) 」が証明されれば、高校数学で導入している「\(e^x\)」は、前回導入した\(\exp(x)\)と、(\(x\)が有理数の範囲で)完全に一致し、かつ、\(\exp(x)\)は、全ての実数の範囲で定義されており、連続かつ無限回微分可能な関数(解析関数)ですから、無理数の場合も含め「指数演算を実数の範囲にまで、素直に拡張すしたもの」になります。

では、\( \exp(a+b)=\exp(a) \cdot \exp(b)\) を証明しましょう。


【\( \exp(x+y)=\exp(x) \cdot \exp(y)\) の証明】

\[ \exp{(x+y)}=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} (x+y)^n\] \[ =\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}{ \sum_{k=0}^{n}{ _n C_k x^k y^{(n-k) }}}  (2項定理)\] \[ =\sum_{n=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{n} \frac{1}{n!} { \frac{n!}{k! (n-k)!} x^k y^{(n-k) }} \]\[ =\sum_{n=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{n} { \frac{1}{k! (n-k)!} x^k y^{(n-k) }} \]\[ =\sum_{n=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{n} { \frac{1}{k!} x^k  \frac{1}{(n-k)!}y^{(n-k) }} \]

ここで、\(n-k=m\)つまり\(n=k+m\)と置く。\(n=0~\infty、k=0~n\)の\(n,m\)の組み合わせを取ることは、\(k=0~\infty, m=0~\infty\)を取ることと同じなので、( \(n,k\)の組み合わせを表にしてじっくり見て考えると分かるかも?(^^;;  ) \[ =\sum_{m=0}^{\infty} \sum_{k=0}^{\infty} { \frac{1}{k!} x^k  \frac{1}{m!}y^{m }} \]\[ =\sum_{k=0}^{\infty}{ \frac{1}{k!} x^k}  \sum_{m=0}^{\infty} {\frac{1}{m!}y^{m}} \]\[ = \exp(x) \cdot \exp(y)\] となります(証明終わり)。


10.4 指数演算の拡張

以上で、任意の有理数に対して、「 \( e^x \) (指数演算)と言っていたもの」が無限多項式 \( \exp(x) \) と一致することが分かりました。そこで、指数演算の定義を変え、\(\exp(x)\) 関数で演算した結果を「指数関数」と呼ぶことにします。そのことにより、\(x\)は、(有理数だけでなく)任意の実数でかまいませんし、後で紹介しますが、虚数でも複素数でも(多項式に入れて計算できるものなら)かまいません。では、そのような意味で、まとめておきます。

\[e^x = \exp(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n\]


暇なときに、xの値をいろいろ変えて、電卓かExcel等を使って、この多項式を、初めの数項を計算してみてください(1960年代までは、人間が実際に手で計算したり、手回し計算機で計算していましたので、今の時代、電卓や表計算ソフト使えば大したことない計算です)。正解は、電卓やexcel(exp(x)関数)で得られます。xの値が小さい場合には数項計算するだけで、結構正確な近似値が得られると思います。そのことに「感動」できると良いかな、と思っています。


なお、関数電卓やコンピュータの中では、この「多項式」を計算して「指数関数」の値を求めています。後で他の関数、三角関数平方根なども紹介しようと思います。関数電卓やコンピュータで扱える関数は、実はこのような方法で、全て「多項式」の計算で、近似値を求めています。


10.5 おまけ:指数関数と対数関数(高校数学のための補足)

最後に、高校数学に出てくる指数関数や対数関数の性質を(ここまでの知見を基に)まとめておきます。

指数関数

\[\frac{d}{dx}\exp(x)=\exp(x) , \exp(0)=1\]を満たす関数は、 \[\exp(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} x^n\] であり、これは指数法則\( \exp(x+y)=\exp(x)\exp(y)\)を満たすため、指数関数と同じになります。 \[e^x=\exp(x)\] \(\exp(x)\)の代わりに\(e^x\)と書けば、 \[\frac{d}{dx}e^x=e^x\] \[e^{x+y}=e^x e^y\] ということです。ここから、以下のことが証明できます。 \[e^{nx} =(e^x)^n \] 一般に、 \[e^{xy}= (e^x)^y\] \[(ae)^x=a^xe^x \] となります

ついでに、高校流の方法で、指数関数の微分の公式とネイピア数の式も出しておきましょう。 \[ \frac{d}{dx}a^x=\frac{a^{(x+dx)}-a^x}{dx}\\ =\frac{a^x a^{dx}-a^x}{dx}\\ =\frac{( a^{dx}-1) a^x}{dx}\\ =\frac{ a^{dx}-1}{dx} a^x\\ \] 指数関数の微分は指数関数であることが得られましたが、なんか係数がついていますね(^^; そこで、この係数が1になるような\(a\)を、\(e\)と書きましょう。その場合には、 \[\frac{d}{dx}e^x = e^x\] と簡単になります。では、そのようになる\(e\)の値を求めていきましょう。 \[ \frac{ e^{dx}-1}{dx}=1\\ e^{dx} = 1+dx\\ e= { (1+dx) }^{1/dx} \\ \] ここで、高校流に、\(dx\)を\(h : \lim_{h→0}\)と書いておきましょう。 \[e= (1+dx)^{1/dx} = \lim_{h→0} (1+h)^{1/h} \] もし、\(1/h\)を\(n\)と書けば、極限は\(n→0\)だから、 \[e= (1+dx)^{1/dx} = \lim_{n→\infty} (1+\frac{1}{n})^{n} \] とも書けます。なお、\(a^x\)という指数関数のうち、「微分しても変わらないように\(a\)を決めたのが、ネイピア数\(e\)」ですから、微分しても変わらない関数(\(\exp(x)\))から求めたネイピア数\[e= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}\]と、答えは一致します。



【対数関数】
対数は指数関数の逆関数です。逆関数とはすなわち、 \[e^x=y , x=\log y\] つまり、 \[e^{\log x}=x ,  \log{e^x}=x \] ということです。なお、底(てい)を\(e\)とした対数を「自然対数」と呼び、特に断らない限り、自然対数の底は省略します(そういう意味で、ネイピア数あるいはオイラー数 \(e \) のことを「自然対数の底\(e\)」と呼ぶこともあります。なお、一般には、 \[a^x=y ,  x=\log_a y\] つまり、 \[a^{\log_a x}=x ,  \log{a^x}=x \] です。余談ですが、底として10をとる対数を「常用対数」と呼びます。これは大きな数や小さな数を扱うときに「何桁の数か?」という尺度で物を見たい場合に(グラフで表すときの座標軸として)よく使われます。たとえば、細菌などの数とか感染者数などは、増殖あるいは感染だけで他に何もない場合の変化は指数関数になりますので、縦軸を対数目盛にすると、「何もしないときの増え方は直線」になりますので、それを基準として、グラフからいろいろなことが読み取りやすくなります。また、pH(水素イオン濃度)にも底を10にした常用対数が使われます。なお、常用対数を多用する分野では、自然対数を\(\ln x\)と書き、常用対数を\(\log x\)と書く場合もあります。

これだけの性質から、対数に関する全ての公式などが導かれます。たとえば、 \[x y =e^{\log x y}\] ですが、一方、\(x=e^{\log x}, y=e^{\log y}\)ですから、 \[x y =e^{\log x}e^{\log y}= e^{\log x+\log y} \]です。最後は「指数法則」を使っています。つまり、 \[e^{\log xy}= e^{\log x+\log y} \]なので、結局、 \[\log{xy}= \log x+\log y \]となります。これは、指数法則対数で表現したものです。 同様に、他の「指数法則」も対数で書くと、 \[n \log x = \log x^n  \] \[\log_a x= \frac{\log x}{\log a} \] などの対数の法則が全て得られます。
-- 証明: ----
\( x^n=e^{\log(x^n)} \)であるが、\(x=e^{\log x}\)なので、 \[ x^n = {(e^{\log x})}^n = e^{n \log x} \] でもある。よって、\[e^{\log(x^n)}=e^{n \log x}\] つまり、\[\log x^n=n \log x \]

また、\(a\)を底とした対数とは、\(a^x\)の逆関数だから、 \[x= a^{\log_a x}\] ところで、 \(a=e^{\log a}\)であるので、 \[x= ( e^{\log a})^{\log_a x} =e^{ (\log_a x)(\log a)} \] 一方、\(x= e^{\log x}\) でもあるので、 \[e^{\log x}=e^{ (\log_a x)(\log a)}\] よって、 \[ \log x= (\log_a x)( \log a ) \\ \log_a x=\frac{\log x}{\log a} \] --- 証明終わり---

また、対数の微分は、逆関数の微分法で得られます。 \[x=e^y , \log x = y \]なので、 \[\frac{dy}{dx}= \frac{1}{\frac{dx}{dy}}\\ = \frac{1}{\frac{d e^y}{dy}}\\ = \frac{1}{ e^y} =\frac{1}{x} \] また、ある関数\(f(x)\)の対数の微分は、この式と合成関数の微分法を組み合わせて、 \[ \frac{d \log{f(x)}}{dx}= \frac{1}{f(x)}\frac{df(x)}{dx}=\frac{f'(x)}{f(x)} \] あるいは、 \[ f'(x)= f(x) \frac{d \log{f(x)}}{dx} \] となり、このことを利用して式変形することを「対数微分」を利用した式変形の技法と呼ぶことがあります。



では、今日は、このへんで終わり、次回は三角関数(sin,cos関数)について、同様の議論を紹介します。