11. 三角関数のテイラー展開と、三角関数の関数論的な再定義

前回、指数関数のテイラー展開と、逆にテイラー展開の形( \(\exp\)関数 )で指数関数を定義することを学びました。今回は、まず同様に「三角関数(sin関数とcos関数)」のテイラー展開をしてみます。まずはsin関数からです。

既に紹介したように、sin関数の微分はcos関数に、cos関数の微分は-sin関数の微分になります。つまり、

1)  \( \frac{d}{dx} \sin(x) = \cos(x) \)

2)  \( \frac{d}{dx} \cos(x) = -\sin(x) \)

です。この関係は証明は省略しますが、「グラフを描いて」納得していただければ良いです。どうせ後で、指数関数の時と同じく、「sin,cos関数を、(無限)多項式の形で再定義」しますので。


11.1 sin関数のテイラー展開

では、はじめましょう。\( f(x)=\sin(x) \) とおき、テイラー展開の公式\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]に代入していきます。そのためにまず、\(f(x)\) を\(n\)回微分して\(x\)に0を代入した値、\( f^{(n)}(0) \) を求めておきましょう。

 \(f^{(0)} (0) = f(0) = \sin(0)= 0 \)

 \(f^{(1)} (0)= f'(0)= \cos(0)= 1 \)

 \(f^{(2)} (0)= f''(0)= -\sin(0)= 0 \)

 \(f^{(3)} (0)= f'''(0)= -\cos(0)= -1 \)

 \(f^{(4)} (0)= f''''(0)= \sin(0)= 0 \)

 \(f^{(5)} (0)= f'''''(0)= \cos(0)= 1 \)
...

となり、0,1,0,-1 が繰り返されることが分かります。\(n\)が偶数の時は\(f^{(n)}(0)=0\)になっているので、\(n\)が奇数のところのみ考えればよいです。そこで\(n=2k+1 (k=0,1,2,3,4,...)\)とおけば、\( f^{2k+1}(0)=(-1)^k\)と纏められます。ちなみに\(f^{2k}(0)=0 \)です。

この結果をテイラー展開の公式に代入すれば、

\[ f(x) = \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k+1)!} x^{2k+1} \]

\[ =  \frac{1}{1!}x - \frac{1}{3!} x^3 + \frac{1}{5!} x^5 - \frac{1}{7!} x^7    ....\]

\[ =  x - \frac{1}{3 \cdot 2} x^3+ \frac{1}{5 \cdot 4 \cdot 3 \cdot 2} x^5+ ....\]

となります。

この無限多項式が、高校数学で出てきたsin関数に一致する証明は省略します(後で対面授業の時に、Maximaを使って多項式のグラフを描いて、sin関数のグラフに近づくことをデモする予定です)。


 そこで、指数関数のときと同じく、新たに「sin関数を、この無限多項式で再定義」します。

\[ \sin(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k+1)!} x^{2k+1} \]

次にcos関数についても、同様にテイラー展開します。


11.2 cos関数のテイラー展開

先ほどとほとんど同じ計算の仕方をします。まず、\( f(x)=\cos(x) \) とおき、テイラー展開の公式\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]に代入していきます。そのためにまず、\(f(x)\) を\(n\)回微分して\(x\)に0を負代入した値、\( f^{(n)}(0) \) を求めておきましょう。

 \(f^{(0)} (0) = f(0) = \cos(0)= 1 \)

 \(f^{(1)} (0)= f'(0)= -\sin(0)= 0 \)

 \(f^{(2)} (0)= f''(0)= -\cos(0)= -1 \)

 \(f^{(3)} (0)= f'''(0)= \sin(0)= 0 \)

 \(f^{(4)} (0)= f''''(0)= \cos(0)= 1 \)

 \(f^{(5)} (0)= f'''''(0)= -\sin(0)= 0 \)
...

となり、1,0,-1,0 が繰り返されることが分かります。\(n\)が奇数の時は\(f^{(n)}(0)=0\)になっているので、\(n\)が偶数のところのみ考えればよいです。そこで\(n=2k (k=0,1,2,3,4,...)\)とおけば、\( f^{2k}(0)=(-1)^k\)と纏められます。ちなみに\(f^{2k+1}(0)=0 \)です。

この結果をテイラー展開の公式に代入すれば、

\[ f(x) = \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k)!} x^{2k} \]

\[ =  \frac{1}{0!} - \frac{1}{2!} x^2 + \frac{1}{4!} x^4 - \frac{1}{6!} x^6    ....\]

\[ =  1 - \frac{1}{2} x^2+ \frac{1}{4 \cdot 3 \cdot 2} x^4+ ....\]

となります。

この無限多項式が、高校数学で出てきたcos関数に一致する証明は省略します(後で対面授業の時に、Maximaを使って多項式のグラフを描いて、cos関数のグラフに近づくことをデモする予定です)。


そこで、指数関数のときと同じく、新たに「cos関数を、この無限多項式で再定義」します。

\[ \cos(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k)!} x^{2k} \]


指数関数も三角関数も「無限多項式(無限級数)」の形で再定義されましたので、今日はこの辺までにします。

次回は、結果として得られた... と言うか、「無限多項式の形で再定義した指数関数、と三角関数」を、眺めて行きます。

すると...「数学史上最も美しい公式」と言われている、オイラーの公式が見えてきます。