12. オイラーの公式

ではまず、前回・前々回に紹介した「指数関数と、三角関数のテーラー展開の式」を並べて見てみましょう。

12.1 指数関数と、三角関数のテーラー展開の式オイラーの発見

\[ \sin(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k+1)!} x^{2k+1} \]

\[ \cos(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k)!} x^{2k} \]

\[ \exp(x)= \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{1}{n!} x^n \]


何か気が付きませんか? 一般的な式の書き方では見にくいかもしれませんので、具体的に最初の数項を書いてみましょう。


\[ \sin(x) =  \frac{1}{1!}x^1 - \frac{1}{3!} x^3 + \frac{1}{5!} x^5 - \frac{1}{7!} x^7+ ....\]

\[ \cos(x) = \frac{1}{0!}x^0 - \frac{1}{2!} x^2 + \frac{1}{4!} x^4 - \frac{1}{6!} x^6+.... \]

\[ e^x=\exp(x)= \frac{1}{0!}x^0 + \frac{1}{1!} x^1 + \frac{1}{2!} x^2 + \frac{1}{3!} x^3+ \frac{1}{4!} x^4+ \frac{1}{5!} x^5+ \frac{1}{6!} x^6+ \frac{1}{7!} x^7....\]


何か気が付きませんか?....


丁度、\(e^x\) の多項式展開に出てくる係数が、丁度交互に、sinの展開に出てくる係数とcosの展開に出てくる係数になっています(^^) ただし三角関数の場合には、符号が+ー交互に出てきますが....

12.2 オイラーの発見(オイラーの公式)

そこで、\(\exp(x)\)関数(多項式)に、「符号が交互に出てくる仕組み」を加えることを考えます。

ここで、虚数単位 \(i\) の演算を導入しましょう。虚数単位\(i\)とは、\(i^2=-1\)になる数です。もちろん「実数の範囲には」このような数は存在しません。だから、高校などでは「虚」の数として教わったかもしれませんね(本当の意味は、次回説明します)。ここで使う性質は、\( i^0=1, i^1=i, i^2=-1, i^3=-i, i^4=1, i^5=i....  \) のみです。まあ、そういう演算規則を持つ量を新たに導入した、と思ってください。そして、\( \exp(i x) \) を書き下していきます。\( e^{i x} \)と言っても良いのですが、中学・高校流の指数演算の理解の仕方だと、「虚数回掛けるってどういうこと??」となる演算です(^^; しかし、「多項式」で定義されている関数ならば、\(i^n\)の演算が定義されていれば、計算することができます(虚数の場合でも演算が定義されています)。


\[ \exp( i x)= \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{1}{n!} {(i x)}^n \]
\[ = \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{1}{n!} x^n i^n \]

ここで、\(n\)が偶数の時\(2k\)と奇数の時 \(2k+1\) に分けて書けば、

\[ = \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{1}{(2k)!} x^{2k} i^{2k} + \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{1}{(2k+1)!} x^{2k+1} i^{2k+1}   \]

ところで、\(i^{2k} =(-1)^k, i^{2k+1} =(-1)^k i \)だから、

\[ = \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{1}{(2k)!} x^{2k} (-1)^{k} + \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{1}{(2k+1)!} x^{2k+1} (-1)^k i    \]

つまり、

\[e^{ix}=\exp( i x)= \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{(-1)^k}{(2k)!} x^{2k}  + \sum_{k=0}^{\infty}  \frac{(-1)^k }{(2k+1)!} x^{2k+1} i  \]
となります。

 改めて、sin,cos関数のテイラー展開の式と見比べてみましょう。丁度、cos関数のテイラー展開、sin 関数のテイラー展開の式と同じものが出来てています。つまり、

\[ e^{ix}= \cos(x) + i \sin(x) \]

となっています。これがオイラーが発見した「オイラーの公式」です。なんか不思議な式ですね。不思議さと(数学的)美しさを味わうには、たとえば、\(x\)に円周率\(\pi\)を入れると、\( e^{i\pi}=-1 \) となり、数の基本要素である1と符号(-)、そして2つの無理数(超越数)円周率\(\pi\)とネイピア数\(e\) が1つず入っており、それぞれ全く無関係に導入されたものにもかかわらず、それらの間に関係がある... ということで、その不思議さと美しさの一端が感じ取れるでしょうか?(^^; この式は、数学史上最も美しい式とも言われています。

 なお、このような考察が可能になったのは「全ての関数を、無限多項式(テイラー展開)の形で再定義することにより、全ての関数の定義域が自然に(べき演算が可能な、虚数を含む)複素数にまで拡張できたから」です。そしてこのような高い視点に立つことにより、指数関数や三角関数の性質がより深く統一的に理解でき、また、虚数や複素数とは何か、ということを(視覚的に)理解することへとつながります。

では、今日はこの辺までにして、次回は「オイラーの公式により見えてくる世界」の話へと進んでいく予定です。