13. 三角関数の微積分と加法定理

ではまず、前回・前々回に紹介した「指数関数と、三角関数のテーラー展開の式」を並べて見てみましょう。

13.0 前回のまとめ

前回は、テイラー展開の理論\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \] を使い、指数関数(\(e^x\))と三角関数( \( \sin(x), cos(x)\) )を多項式で表現すると、\[ e^x = \exp(x)= \sum_{n=0}^{\infty}  \frac{1}{n!} x^n = \frac{1}{0!}x^0 + \frac{1}{1!} x^1 + \frac{1}{2!} x^2 + \frac{1}{3!} x^3+ \frac{1}{4!} x^4+ \frac{1}{5!} x^5+ \frac{1}{6!} x^6+ \frac{1}{7!} x^7....\]\[ \sin(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k+1)!} x^{2k+1} =  \frac{1}{1!}x^1 - \frac{1}{3!} x^3 + \frac{1}{5!} x^5 - \frac{1}{7!} x^7+ ... \]\[ \cos(x) = \sum_{k=0}^{\infty} \frac {{ (-1) }^k }{(2k)!} x^{2k} = \frac{1}{0!}x^0 - \frac{1}{2!} x^2 + \frac{1}{4!} x^4 - \frac{1}{6!} x^6+.... \]であることを学びました。右辺は、無限項ありますが、所詮、単なる「多項式」ですから、\(x\)の値は有理数でなく無理数であっても、指数法則によらず「四則演算だけで」指数関数も定義されますし、さらに「虚数」や複素数であっても、「四則演算が可能なものなら」、右辺は定義されますので、指数関数や三角関数の定義域(変数 \(x\) の範囲)は、実数だけでなく虚数も含む複素数にまで拡大できます。元々の「三角形の辺の長さの比」とか「何回掛けるか」という意味では理解できない領域ですね(^^; つまり、遥かに高い視点に立つことができた、ということになります。

そして、その視点に到達したときに、初めて見えてくることとして、\[ e^{ix}= \cos(x) + i \sin(x) \]の関係があること(オイラーの公式)を学びました。ここで\(i\)は、虚数単位( \(i^2=-1\) )です。\(x\)が実数の時、\(e^{ix}\)は、一般に、複素数になります。その実部(実数部分)が\(\cos(x)\)になり、虚部(虚数部分)が\( \sin(x)\)になるという意味の式になっています。ここから、複素数を平面で表す手法(複素平面)が編み出されるのですが、それは次回に回し、今回は、この式から直接得られる、「指数関数と三角関数の関係」に、まず注目していきましょう。


13.1 指数法則と三角関数の加法定理の関係、指数関数の微積分と三角関数の微積分の関係。

【指数法則と三角関数の加法定理の関係】

では今日は、オイラーの公式の\(x\)を、\(x+y\)に置き換えて書いてみましょう。\[ e^{i(x+y)}= \cos(x+y) + i \sin(x+y) \]左辺は「指数法則」で計算(変形)できそうですが、右辺は、三角関数の中に和が入っていますので、「三角関数の加法定理」が関係してきそうです。つまり、「指数法則」と「三角関数の加法定理」の間に、何か関係があることになります。そこで、この関係を、具体的に見ていきましょう。

まず左辺は、指数法則により、 \[ e^{i(x+y)}= e^{ix+iy}= e^{ix} e^{iy}\] と変形できます。ところで、 \[ e^{ix}= \cos(x) + i \sin(x) \] ですから、\(x\)を\(y\)と書けば、 \[ e^{iy}= \cos(y) + i \sin(y) \] です。そしてこの2つの式を掛ければ、 \[ e^{i(x+y)}= e^{ix} e^{iy}= ( \cos(x) + i \sin(x) ) \cdot (\cos(y) + i \sin(y)) \] となります。右辺を展開し、実数部分と虚数部分を分けて書くと、 \[ (\cos(x) + i \sin(x)) \cdot (\cos(y) + i \sin(y)) = \cos(x) \cos(y)+ i \cos(x) \sin(y) + i \sin(x) \cos(y) +i^2 \sin(x) \sin(y) \] \[ = \cos(x) \cos(y)- \sin(x) \sin(y) + i(\cos(x) \sin(y) + \sin(x) \cos(y) )\] となります。

ところで、元々計算していたのは、 \[ e^{i(x+y)}= \cos(x+y) + i \sin(x+y)\] であり、この式の左辺を指数法則で分解してから計算すると、 \[ e^{i(x+y)}= e^{ix} e^{iy}= (\cos(x) + i \sin(x)) \cdot (\cos(y) + i \sin(y)) = \cos(x) \cos(y)- \sin(x) \sin(y) + i(\cos(x) \sin(y) + \sin(x) \cos(y) \] となったのですから、この2つの式の右辺は等しくなります。つまり、 \[ \cos(x+y) + i \sin(x+y) = \cos(x) \cos(y)- \sin(x) \sin(y) + i( \cos(x) \sin(y) + \sin(x) \cos(y))\] となります。これは「複素数」の式としてまとめられていますが、2つの複素数が等しいということは、2つの式の「実数部分」も「虚数部分」も等しいことを意味します。ですから、実数部分、虚数部分を分けて書けば、 \[ \cos(x+y) = \cos(x) \cos(y)- \sin(x) \sin(y) \] \[ \sin(x+y) = \cos(x) \sin(y) + \sin(x) \cos(y)\] となります。これは、「三角関数の加法定理」そのものです。

つまり、オイラーの公式を用いて虚数の指数関数を指数法則で分解することは、三角関数の加法定理と同じ意味になる、という知見が得られます。さらに、三角関数の加法定理を使うべき計算(論理展開)は、虚数の指数関数を用いれば、単なる指数法則と複素数の掛け算にしか過ぎない、という構造も見えてきます。実際、複雑な振動現象や波動現象(\( \sin\) 関数で記述される現象)などを扱う場合、三角関数を使う代わりに「虚数の指数関数」を使うことにより、計算が簡略化されたり、見通しが良くなります。実用的にも強力な関係式ですが、「指数法則と三角関数の加法定理は、本質的に同じものである」という視点は、なんか不思議な面白さがありませんか?(^^)

「一見無関係(別物)のように思えることの間に、深い関係があることを見出す」と言うのが、「数学(mathmatics)」の神髄です。そしてこの関係は、さらに一見無関係と思える「微分(傾き)という演算」の導入により、テイラー展開(n次多項式の係数は、n回微分して\(x\)に0を代入したもので表すことができる、という理論)により、初めて「見えてくる」ものです。


【指数関数の微積分と三角関数の微積分の関係】

ではついでに、指数関数の微積分の公式と、三角関数の微積分の公式の関係を見ておきましょう。微積分の公式とは言っていますが、積分は微分の公式を逆に使うだけですから、微分の公式のみ見ていきます。

元々、\( \frac{d}{dx} \exp(x)= \exp(x) \) となる関数を多項式で定義し、この関数が「指数法則を満たす」ことを用いて、\(x\)が有理数だけでなく一般に任意の複素数の時に、\(e^x=\exp(x)\)と定義したのですから、もちろん\[\frac{d}{dx} e^x =e^x \]です。また、合成関数の微分法(無限小量の割り算の約分)を使えば、任意の数\(a\)に対して、 \[ \frac{d}{dx} e^{ a x} = \frac{d e^{ax}}{d( ax)} \frac{d (ax)}{dx}= a e^{a x} \] です。ですから、もし\(a=i\)なら、 \[ \frac{d}{dx} e^{ i x} = i e^{i x} \] となります。この「指数関数の微分の式」に「オイラーの公式( \( e^{ix} = \cos(x) + i \sin(x) \) )」を代入してみましょう。すると、 \[ \frac{d}{dx} ( \cos(x) + i \sin(x) ) = i ( \cos(x) + i \sin(x)) \] となります。右辺左辺とも展開し、実数部を先に、虚数部を後に書くと、 \[ \frac{d}{dx}  \cos(x) +  i \frac{d}{dx}\sin(x) = - \sin(x) + i \cos(x) \] となります。この式は複素数の式としてまとめられていますが、2つの複素数が等しいということは、2つの式の「実数部分」も「虚数部分」も等しいことを意味します。ですから、実数部分、虚数部分を分けて書けば、 \[ \frac{d}{dx} \cos(x) = - \sin(x) \] \[ \frac{d}{dx} \sin(x) = \cos(x) \] となり、「\( \sin(x),\cos(x)\)の微分の式」が得られます。

このような理解に達すると、「指数関数の微積分(\(e^x\)を微分しても積分しても変わらない)だけ」知っていれば、三角関数の微積分は、自動的にできます(別に覚える必要はなくなります)。


【次回予告】

 遠隔授業の形であまり進めると、「概念形成が不十分な場合のフォロー」が不十分になりますので、今日はこの辺で終わりにし、次回は、対面授業の形で、\( e^{ix}= \cos(x) + i \sin(x) \)の式に基づいた「複素数の視覚的表現(複素平面)」の話に進む予定です。