3. 割り算の性質(簡単な関数の微分と微分演算の諸定理)

本日は盛り沢山です。以下の内容を、対面授業でなら、出席者の理解度に合わせて、丁寧に詳しく紹介したり、軽く流したりする予定ですが.... 遠隔なら... 無いより有る方が良いと思いますので、一応全部詳しく紹介しておきます(^^;(分量がちょっと多いのはそういう理由)。様々な公式や計算が出てきますが。それらが全て「単なる割り算の計算でしか無い」ことが読み取れれば、それで良いと思います。微分の公式は「覚える」のではなく、「割り算の性質として理解する(必要があれば割り算の性質に基づき導出できるようになる)」ことが大切です。公式になっている問題も、丸暗記の公式に頼らず割り算の性質として計算することに慣れることにより「その公式だけでなく、似た他の公式も、同様に割り算で理解(導出)できる」ようになりますし、公式になっていない問題も、同様に解けるようになります。

余談ですが、実はこれは小学校の算数?高校数学でも同様ですし、実は受験勉強としても(試験で、確実に80点以上を目指す勉強法として)とても有効な方法です。なお、確実に90点以上取れる人が100点を目指す受験勉強法が問題集を使った反復練習ですので、70点以下の人が問題集で反復練習的な勉強しても、大抵の場合「確実に80点」のレベルには届きません(^^;。



3-1. 微分の記号と基本的な性質

\(y\)が\(x\)の関数であるとき、\(y=f(x)\)と書きます。\(f()\)は、2つの数の「対応関係」を表す記号で「関数」と呼ばれます。その対応関係は\(x\)の値と\(y\)の値の組を列挙して表現する方法(表による表現)、\(x\)を横軸\(y\)を縦軸にとった図中の線(グラフ)として表現する方法(グラフによる表現)、\(x,y\)の関係を数式で表現する方法(式による表現)があります。なお、どの方法で表現しても「同じ関数」であることを意識してください。なお、表による表現はコンピュータで計算するときに便利であり威力を発揮します。グラフによる表現は、人が「関数関係を視覚的に把握する(理解する)」ときに便利であり、威力を発揮します。また簡単な場合にしか出来ませんが、簡単な問題の場合には式で表現すると「全ての値に対して、関数を取り扱うこと」ができます。表だと飛び飛びの値しか議論できませんし、グラフだとある範囲までしか議論できません。これらの特徴を踏まえて、式だけでなく、必要があれば、表やグラフを用いて理解すると良いでしょう。


【微分の定義、記号】

無限に小さい量\(dx\)を導入します。十分な精度の近似計算であればこれは「十分小さい数」と思って具体的に計算すれば良いし、厳密な話ならば「無限小の量」として扱います。ここで、関数\(f(x)\)の\(x\)が\(dx\)変化した場合を考えます。すると\(y\)は、 \[dy= df(x) = f(x+dx)-f(x)\]だけ変化します。 このように、\(y\)の変化は\(dy\)、また関数\(f(x)\)の値の変化は、\(df(x)\)と書くことにします。 ここで、\(y\)の変化量を\(x\)の変化量で 割ります。すると、 \[\frac{dy}{dx}= \frac{df(x)}{dx}=\frac{f(x+dx)-f(x)}{dx} \]となります(微分は、無限小量の「割り算」=グラフの傾き)。なお「微分の記号」は、\[\frac{d f(x) }{dx} =\frac{d}{dx} f(x)\] とも書きます。\( \displaystyle \frac{d}{dx} \) を「微分演算子(微分をしなさい=傾きを求めなさい という演算を表す記号)」と呼ぶこともあります。なお「微分をしなさい(傾きを求めなさい)」という記号として「ダッシュ」を使う場合もあります。 たとえば、 \[ y'= \frac{d}{dx}y,\\ f'(x)=\frac{d}{dx}f(x), \] のように記号を使います。 なお、関数は、その値のみを変数として扱う場合などには書き方を省略し、\( f(x) = f \) と書くこともあります。同様に、\( d f(x) = df\) 等と省略して書く場合もあります。書き方だけの問題でどちらも「同じもの」を表しています。以上、内容的には前回の復習です。


【微分演算の線形性(分数式のかっこのはずし方)】

「線形性」などという難しそうな数学用語を使いましたが、「1次式」という意味です(^^; 1次式のグラフは直線(linear)になりますが、その意味で「1次式の関係(2乗などにならない))」を「線形(linear)」と言います(^^; 2つの関数\(f(x)\)と\(g(x)\)を念頭におき、その1次式を議論します。つまり、「ある数を掛けて、足したもの」です。具体的には、\(a f(x)+b g(x)\)(ここで、\(a,b\)は定数) という関数を考えるということです。この関数を微分すると、 \[ \frac{d}{dx}( a f(x)+b g(x) )= \frac{ d( a f(x)+b g(x) ) }{dx} \\ =\frac{ \{ a f(x+dx)+b g(x+dx) \}-\{ a f(x)+b g(x) \} }{dx} \\ =\frac{ a\{f(x+dx)-f(x)\} + b \{g(x+dx)-g(x) \} }{dx}\\ = a \frac{d f(x)}{dx} + b \frac{d g(x)}{dx} \\= a \frac{d}{dx}f(x) + b \frac{d}{dx} g(x) \]

となります。つまり「定数を掛けてから微分しても、微分してから定数を掛けても同じ」「足したものを微分しても、微分したものを足しても同じ」ということです。なお「括弧を外すだけの計算」ですから、写すのではなく「最初の問題のみノートに写して」あとは、ノートで自分で(括弧を外す)計算をして、答えが出たら、教材の答えと比較する、と良いと思います。


【合成関数の微分法】

\(x\)を決める(独立変数と呼びます)と、\(y\)が決まる(従属変数と呼びます)とき、この数と数の対応関係を「関数」と言いましたが、さらに\(y\)が決まれば\(z\)が決まるならば、結果的に、\(x\)が決まると\(z\)が決まりますから、\(z\)は\(x\)の関数とも言えます。こういう関係を「合成関数」と呼びます。変数がいろいろ出てきてややこしいですから、ここで変数や関数の記号を、ちょっと工夫して記号の数を減らすよう、整理しましょう。今、\(y\)が\(x\)の関数なら、その「関数自体」も(\(f\)ではなく\(y\)と書くことにします。すると、\(y=y(x)\)となります。左辺の\(y\)は値、右辺の\(y\)は関数を表していますが、混乱なく理解できるのではないかと思います。また、(従属)変数なのか関数なのか混乱しても「どちらも値は同じ」ですから、実害は一切ありません(^^) そこでここから先、このように「(従属)変数と関数に同じ記号(同じ文字)を使う」という流儀で進めていきましょう。ここで一旦頭の中リセット(^^) 今まで使った関数の定義や記号は忘れてください。

まず最初に(応用上の理由で)、\(x\)の関数\(u(x)\)を導入し、その値も\(u\)と書きます。つまり\(u=u(x)\)という関数を考えるということです。そして、\(u\)の関数\(f(u)\)を導入し、その値も\(f\)と書きます。つまり\(f=f(u)\)という関数を考えるということです。すると、\(x\)の値を決めると\(u=u(x)\)が決まり、\(u\)の値が決まると\(f=f(u)\)が決まるということですから、結局、\(x\)の値が決まると、\(f(u(x))\)として\(f(x)\)の値が決まる、つまり\(f(x)=f(u(x))\)となります。なお右辺の\(f\)と左辺の\(f\)は「値は同じ」ですが当然式の形は違います。例を上げましょう。 \[u=x+3, f=u^3\]という2つ関係を考えます。これは、 \[u(x)=x+3,f(u)=u^3\]という2つの関数で表されます。 ところで、この2つの関係を続けて見ると\[ f(u)=u^3=u(x)^3=(x+3)^3 =f(x) \] と見ても良いでしょう。\(f(u)\)と\(f(x)\)は式の形は違うけど、値は同じ、というのは、こういう意味です。実用上は逆向きに使います。たとえば、\(f(x)=(x+3)^3\)と言う関数を、\[u(x)=x+3,f(u)=u^3\]と2つの関数の合成関数\(f(u(x))\)と「分解して」扱いましょう、というのが「合成関数」の概念の使い方です。

では、この合成関数を微分することを考えます。 合成関数( \( f=f(u),u=u(x), f=f(u(x)) \) )とします。合成関数\(f(u(x)\)の微分は、\[ \frac{d f (u(x) ) }{dx}\]という分数(割り算)ですが、この式の「分子と分母に、同じ数\(u\)を掛けましょう(分数の約分)。 すると、 \[ \frac{d f (u(x) ) }{dx} = \frac{d f(u)}{du} \frac{d u(x)}{dx}\] となります。ここで\(u\)と\(u(x)\)は同じ値、\(f(x)\)と\(f(u(x))\)と\(f\)も同じ値(だから()の記号の有る無しは気にしなくて良い)ということに注意してください。この式が、合成関数の微分法と言うよりは「小中学生でも当たり前な、単なる分数計算の式(分母分子に同じ数をかけても値は変わらない)」に見えたら、それでOKです。決して「新たな公式として覚えるようなことはしない」で下さい(^^;

ついでですから、この分数計算を、具体的にどういう場合に使うと便利なのか、実例を1つ紹介しておきます。あ、こういう計算を素早くできるように練習する必要はありません。「こういう利用法がある」ということだけ理解していただければ良いと思います。 では、関数\(f(x)=(x^2+x)^6\)を微分してみます。使う微分の公式は後で紹介しますが、多分高校で教わっている\(\frac{d}{dx}x^n=n x^{n-1}\)だけです(なお、この先も具体例で具体的な式の微分をとりあげますが、その際も、この公式だけは使わせていただきます。なおこの公式の導出は後ほど行いますし、細かい具体例の計算は「軽く眺めて」こんな感じか?(^^)と思っていただければそれで構いません)。 分数計算(合成関数の微分)を知らないと、問題の式を展開し、それから各項微分していきます。6乗の展開式ですから、結構面倒で、沢山の項が出てきます。そして各項1つずつ微分の公式を当てはめて... とやると、難しくはないですが計算量も多くとても面倒なので、一発で正解を出すのは、結構大変でしょう。一方、式の中には一塊になっている部分があるから、それを\(u=x^2+x\)とおくと、問題は\(f(u)=u^6\)となります。\(u\)は\(x\)の関数なので、結局\(f(u(x))\)という形の(\(u\)を媒介した)合成関数と見ることができます。そこで、この微分計算をするのに、分母分子に\(du\)を掛けると、\[ \frac{d}{dx}(x^2+x)^6=\frac{d u^6 }{dx}\\ =\frac{d u^6 }{du}\frac{du}{dx}\\ =\frac{d u^6 }{du}\frac{d (x^2+x)}{dx}\\ =6 u^5 (2 x+1) \\ =6(x^2+x)^5(2x+1) \] と、(ちょっ慣れれば暗算で一発で答えを出せる程度)簡単に求めることが出来ます。


【逆関数の微分法】

\(x\)を決めると\(y\)が決まるという関数\(f\)を考えます。\( y=f(x)\),\(x\)が独立変数(決める数)で\(y\)が従属変数(決まる数)と言っても良いです。ここで、「逆の対応」を考えます。つまり、\(y\)が独立変数(決める数)で\(x\)が従属変数(決まる数)という対応を考えます。これを元の関数の「逆関数」と呼び\(f^{-1}\)と書きます。 \[ y=f(x)\\ f^{-1}(y)=x\]右辺と左辺を入れ替えて書けば\[ x=f^{-1}(y)\] です。どちらも同じ対応関係ですが「決める数(独立変数)」が変わっています。関数をグラフで書く場合には、普通は「横軸に独立変数\(x\)」「縦軸に従属変数\(y\)」を書きます。ですから、逆関数は、縦軸と横軸を入れ替える、あるいは原因と結果を入れ替える、という意味だと捉えれば良いでしょう。

なお、\(x,y\)という変数の最初の意味を一旦忘れて、この「逆関数」という関数に有る数を入れたら何が出てくる? ということを考えるときには、単純にこの逆関数に、(新たな)独立変数\(x\)を入れたとき、出てくる答えを(従属変数\(y\)と表しましょ、というときには、\(y=f^{-1}(x)\)のように書きます。\(x,y\)の意味を無視して\(x,y\)という記号(文字)で理解しようとすると、混乱しますので、注意して下さい(^^;) 例を挙げると、 \[ y=x^2=f(x)\]のとき、\[y^{1/2}=x\]なので、 \[x= y^{1/2} = f^{-1}(y)\]です。 \[ f^{-1}(y) = y^{1/2} \]なお、ついでですので、独立変数を改めて\(y\)ではなく\(x\)と書けば、 \[ f^{-1}(x) = x^{1/2} \]とも書けます。つまり \(f(x)=x^2 \)の逆関数は、\( f^{-1}(x)=x^{1/2} \)になります。

なお、逆関数を「元の関数と関係して」取り扱う場合、\(x,y\)の定義を途中で変えるのは混乱の元ですから、おすすめは一貫して、\(y=f(x), f^{-1}(y)=x\)の文字を使い、最初の関数では\(x\)が独立(決める数)、次の式では\(y\)が独立(決める数)と読む方法です。これだけなら混乱しませんし、必要があればこの式から出発して、新たに記号を導入したりしていけば良いです。

では、前置きはこの辺にして、「逆関数」を微分してみましょう。

\[ \frac{d f^{-1}(y) }{dy}=\frac{d x }{dy} =\frac{1}{ \frac{dy}{dx} }=\frac{1}{ \frac{df(x)}{dx} } \]

繁分数(分数の中に分数が入っている)で書いていますが、この計算は分かりますね? 分母分子を\(dx\)で割っただけです。 すると、逆関数の微分は、微分の逆数になっていることが分かります。 先程の具体例で行きましょう。 \(y=x^2=f(x)\)の逆関数\(x=y^{1/2}=f^{-1}(y)\)を微分しましょう。逆関数の場合には独立変数(決める数、グラフの横軸)は\(y\)ですから、そのグラフの傾きは、 \[ \frac{d y^{1/2}}{dy}=\frac{df^{-1}(y)}{dy}\\ =\frac{1}{ \frac{df(x)}{dx}}\\ =\frac{1}{ \frac{d x^2}{dx}}\\ =\frac{1}{2 x}\\ =\frac{1}{2 y^{\frac{1}{2}}}\\ =\frac{1}{2}y^{-\frac{1}{2}}\\ \] です。ここで\(y\)を\(x\)と書けば、 \[\frac{d x^{1/2}}{dx}=\frac{1}{2}x^{-1/2} \] であることが求まります。


【積関数の微分法の導出】

2つの関数\(f(x)\)と\(g(x)\)の積の微分がどうなるのかを求めてみます。

\[ \frac{d}{dx} \{ f(x)g(x) \} = \frac{d \{f(x) g(x)\} }{dx}\\ = \frac{ f(x+dx) g(x+dx) - f(x) g(x)}{dx} \\ = \frac{ f(x+dx) g(x+dx) -f(x+dx)g(x)+f(x+dx)g(x) - f(x) g(x)}{dx} \\ = \frac{ f(x+dx) \{ g(x+dx) - g(x) \} + \{ f(x+dx) - f(x) \} g(x) }{dx} \\ = f(x+dx) \frac{ g(x+dx) - g(x) }{dx} + \frac{ f(x+dx) - f(x) }{dx}g(x) \\ = f(x+dx) \frac{d g(x)}{dx}+ \frac{d f(x)}{dx}g(x) \\ =f(x) \frac{d g(x)}{dx}+ \frac{d f(x)}{dx}g(x) \]


3行目、同じものを足して引いておくのが「技巧」です。このようにすることにより、積関数の微分を、それぞれの関数の微分の定義式に纏めることができます。また、最後は... \(dx\)がものすごく小さいなら、 \(x+dx\) と \(x\) はほとんど同じですし、 \(dx\)は無限小ですから... という意味です。

一応、具体例も紹介しておきます。\((x^2+4)(x+3)^6\)の微分を求めたいとき、 \[ \frac{d}{dx} ((x^2+4)(x+3)^6 )=\frac{d(x^2+4)(x+3)^6}{dx}\\ = (x^2+4)\frac{d(x+3)^6}{dx} +\frac{d(x^2+4)}{dx} (x+3)^6 \] \[ = (x^2+4)6(x+3)^5+(2x)(x+3)^6 \\ = ...      \] ここからはもう良いですね(^^; 2つの関数の積、と見なさる場合、前だけ微分した式と、後ろだけ微分した式の和の形になりますので、それを利用して計算を簡単にすることもできます。なお、計算自体は機械でできますから、あまり「練習」する必要はないと思いますが、後で論理展開として使いますので(第5回で紹介する部分積分法という積分法が、この関係の応用です)、式を覚えられない場合には、後で引き出せるよう、どっかにメモしておくと良いかもしれません。そして、「あとで、なんじゃこれ?(^^;)」と思ったら、「同じものを足して引く」という技工を思い出すか(忘れそうならそれも予めメモしておいて)、「ああ、引き算の割り算に、同じもの足して引いて、2つに分けただけね(^^)」という「理解」を思い出せばいいと思います。何回も使うことが必要な人なら、そのうち自然に覚えますし、覚えられなければ、それほど必要としていないということですから、必要なときにメモを見れば、それで十分でしょう。


3-2. 基本的な関数の微分

この授業では、基本的な関数の「微分の公式」として、最終的に覚えておいたほうが良いのは、 \( \displaystyle \frac{d x^n }{dx} = n x^{n-1} \) だけです。高校で教わっていると思いますが、これだけは、一応導出しておきましょう。 (練習として\( n=0,1,2\) のときから順に始めるといいかも。

まず、\(n=0\)のとき。\(x^0=1\)で、定数です。定数のグラフは傾きのない横線ですから、傾きは0,つまり\( \frac{d x^0 }{dx} = 0 \)です。次に\(n=1\)のとき。\(x^1=x\)で、グラフの傾きは1です。これを式で書いてみましょう。 \[ \frac{d x^1 }{dx}=\frac{dx}{dx}=1 \] では次に\(n=2\)のとき。\((a+b)^2=(a+b)(a+b)=aa+ab+ba+bb= a^2+2ab+b^2\)であることを思い出しましょう。括弧を外す計算ですから、中学校で教わったと思います。最初の括弧を外すとき、最初の括弧からaを選び、次の括弧からbを選ぶ、\(ab\)と最初の括弧から\(b\)を選ぶ\(ba\)は、値として同じだから、\(2ab\)になります。この関係を使うと\((x+dx)^2=x^2+2xdx+dx^2\)になります。 \[ \frac{d x^2 }{dx}=\frac{(x+dx)^2-x^2}{dx}\\ =\frac{x^2+ 2x dx + dx^2 -x^2}{dx}\\=2x+dx\\=2x \] 最後、\(2x+dx\)は、\(dx\)が「とても小さい」場合には、\(2x\)と「殆ど変わらない(近似的に同じと言ってもよい)」値になりますし、\(dx\)が無限に小さい(無限小)の場合には、実数としては同じ値になります(前に補足で書いたこととの関係では、厳密に言えば、超準理論における超実数としては異なるが、そこから射影した実数の範囲では同一になる、ということです。)。 では次に\(n=3\)のとき。\((a+b)^3=(a+b)(a+b)(a+b)= aaa+aab+aba+baa+abb+bab+bba+bbb=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3\)であることを思い出しましょう。全ての括弧か全部aを選び出すのは1通り、\(a\)を2つ、言い換えると\(b\)を1つ選び出す方法は3通りになります。そのため、\(a^2b\)の係数は3になります。この関係を使うと、\((x+dx)^3=x^3+3x^2dx+3xdx^2+dx^3\)になります。 \[ \frac{d x^3 }{dx}=\frac{(x+dx)^3-x^3}{dx}\\ =\frac{x^3+ 3x^2 dx + 3x dx^2+dx^3 -x^3}{dx}\\ =3x^2+3x dx +dx^2\\ =3x^2 \] ここで、「全部真面目に計算するのはあまり賢くない(^^; 最後の式で\(dx\)が残れば、それは無視してしまうのだから、\(dx\)が残らない項だけ計算すれば十分だろう(^^)」ということに気がつく人もいるかも知れませんね。なお、\(dx\)がとても小さい場合には\(dx^2\)はとてもとても小さい量ですし... ということで\(dx\)の高次の後も、最後は全部消えますので、まじめに計算する必要はありせん(^^; では次に、その事を踏まえて、\(n=4\)のとき。\((x+dx)^4=(x+dx)(x+dx)(x+dx)(x+dx)=x^4+4xdx+□xdx^2+... \)となります。□や...の部分は、後でどうせ消えてしまいますので、適当に計算サボります。 \[ \frac{d x^4 }{dx}=\frac{(x+dx)^4-x^4}{dx}\\ =\frac{x^4+ 4x^3 dx + □dx^2+□dx^3+□dx^4 -x^4}{dx}\\ =4x^3+□dx+□dx^2+□dx^3\\ =4x^3 \]

では次に.... きりがありませんから、一般に\(n\)のとき。 \(x+dx)^n=(x+dx)(x+dx)...(x+dx)=x^n+nx^{n-1}+ ....\)となります。全ての括弧の中から\(x\)を選び出すのは1通り、1つだけ\(dx\)を選んでその他(\(n-1\)個)は\(x\)を選び出すのは\(n\)とおりですから。 なお、もし「二項定理」を教わっていれば、 \( \displaystyle (x+dx)^n= \sum_{k=0}^{n} {_nC_k x^k dx^{n-k}}=x^n+_nC_1 x dx^{n-1} + _nC_2 x^2 dx^{n-2}+...= x^n + nx^{n-1}dx+... \) だから...と理解してもかまいません。 すると、 \[ \frac{d x^n }{dx}=\frac{(x+dx)^n-x^n}{dx}\\ =\frac{x^n+ nx^{n-1} dx + □dx^2+ ... -x^n}{dx}\\ =nx^{n-1}+□dx+ □dx^2+...\\ =nx^{n-1} \] となり、 \[ \frac{d x^n }{dx}=nx^{n-1} \] であることが、導き出されました。


【その他、初等関数の微分】

以下の(高校数学の範囲で出てくる)関数の微分は、後で(第10回、第13回に)「関数論」の考え方(大学の数学)で関数を再定義し、厳密な証明を行いますし、簡単な導出や覚え方も紹介しますので、ここでは関数のグラフの形に基づき、「グラフを見れば、確かにそんな形になるな」とか、割り算の性質に基づき「言われれば、確かにそう変形できる...かな?(^^;)」とか、ある程度納得する程度で構いません(高校の教科書・参考書にも高交流の証明がありますので復習してもいいですが、その必要も無いでしょう)。また、後で簡単な、maximaのデモも行う予定ですが、積分の話に進んだとき、一部以下の式も使うかもしれませんので、一応紹介しておきます。


・ \( \frac{d}{dx} e^x = e^x \)

・ \( \frac{d}{dx} \log x = x^{-1} \) :( \( y = e^x \) のとき \( \log y = x \) 。対数関数は指数関数の逆関数であるので、逆関数の部分法で、指数関数の微分の公式から容易に求められる)

・ \( \frac{d}{dx} \sin x = \cos x \)

・ \( \frac{d}{dx} \cos x = -\sin x \)


「以後利用する、微分に関わる式は、これで全て」です(私の書き忘れがなければ...ですが)。これだけの「公式」的なものを、理解すれば、あとは「普通の、割り算の知識や割り算のセンス」で、微分に関わる計算は、全て行えます。細かく説明しましたので、最後に、簡潔にまとめておきます。

【まとめ】 \[dy= df(x) = f(x+dx)-f(x),\] \[\frac{dy}{dx}= \frac{df(x)}{dx}=\frac{f(x+dx)-f(x)}{dx}, \] \[\frac{d f(x) }{dx} =\frac{d}{dx} f(x),\] \[ y'= \frac{d}{dx}y,\\ f'(x)=\frac{d}{dx}f(x), \] \[ \frac{d}{dx}( a f(x)+b g(x) )= a \frac{d}{dx}f(x) + b \frac{d}{dx} g(x), \] \[ \frac{d f (u(x) ) }{dx} = \frac{d f(u)}{du} \frac{d u(x)}{dx},\] \[ \frac{d}{dx} \{ f(x)g(x) \} = f(x) \frac{d g(x)}{dx}+ \frac{d f(x)}{dx}g(x),\] \[ \frac{d x^n }{dx}=nx^{n-1}, \] これらを「公式として覚える」必要はありません。「割り算」として納得し、必要なときに引き出せればよいです(ノートにメモして、必要なときに、それを見るのでも良いです)。また、後で、以下の式を利用するかもしれませんので、ノートなどにメモして、必要なときに引き出せるようにしておいて下さい。詳しい説明や証明などは後ほど紹介します。 \[ \frac{d}{dx} e^x = e^x \] \[ \frac{d}{dx} \log x = x^{-1} \] \[ \frac{d}{dx} \sin x = \cos x \] \[ \frac{d}{dx} \cos x = -\sin x \] 「以後利用する、微分に関わる式は、これで全て」です。これだけの「公式」的なものを、理解あるいはメモしておけば、あとは「普通の、割り算の知識や割り算のセンス」で、微分に関わる計算は、全て行えます。

 微分(割り算)についてはこれで一旦話を終え、次回は、同様に、積分(足し算)について、必要最小限のことを、全てまとめていきます。

では、今日は、このへんで終わります。


--- おまけ(余談)---

今回、繁分数が出てきましたが、皆さん繁分数は慣れていますか? 多分日本の小学校などでは、避ける傾向が有るような気がして、ちょっと気になっています。繁分数って書くと複雑そうに見えますが、「概念」は、「割り算」の基本そのままなので、実は、割り算と分数の関係を理解すると、とても(論理的に)分かりやすいです。

例えば、\(\frac{a}{b}÷\frac{c}{d}\)はいくつになるか?「分数で割るときは後ろはひっくり返して掛ける」と暗記している人はいませんか?(^^; そのような方に質問です。もし小中学生に「なんで後ろをひっくり返して掛けるの?」と聞かれたら、どう説明しますか?(^^;

実は「割り算」の記号、って時代や国により、何種類かあるんです。割り算の記号として、[a÷b]、[a:b]、[a/b]、[\(\frac{a}{b}\)]を使う国がありますが、全て同じ「割り算」を表す記号です。

記号の違いだけで、中身は全て同じ、つまり、 \[a÷b=a:b=a/b=\frac{a}{b}\] なんです。日本の算数では、最初の記号は「割り算」、次の記号は「比率」、次の記号は「分数(を一行に書いたもの)」、最後の記号は分数の意味と教えていますが、国際的には、実は全て「同じもの(国により記号が違うだけで同じ意味、同じ量)」なんです。

そのような位置づけで、わり算と分数の関係を理解すると、 \[x÷y=\frac{x}{y}\] と書くことは、当たりまえ(記号の約束)です。 ここで、もし\(x=\frac{a}{b},y=\frac{c}{d}\)であれば、そのまま入れれば(=置き換えれば=代入すれば)、 \[\frac{a}{b}÷\frac{c}{d}=\frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}}\] になります(繁分数って自然でしょ?)。ここで 「分数は分母分子に同じ量を掛けても(割っても)同じ値になる」という「約分の法則」を思い出します。この法則、実は簡単なようで「とても大切で、とても奥深く、とても応用範囲が広い」法則なんです。中学生以上なら式を使いますが、小学校では、ケーキの分けるときの話などで、その内容を詳しく教えるはずです(が、数学をきちんと学んでいない小学校の先生が、その深い意味を知って、ちゃんと教えきれているかどうかは疑問(^^;))。 右辺は、分母分子が分数になっていますが、分子の分母(\(b\))、や分母の分母(\(d\))を、分母分式掛けても分数の値は変わりません。 そこで、分母分子に「同じ数(たとえば\(bd\))」を掛けます。すると、 \[\frac{\frac{a}{b}}{\frac{c}{d}} =\frac{\frac{a}{b}×bd}{\frac{c}{d}×bd}=\frac{a×d}{b×c} \] となります(なお、\(a×b=b×a\)の知識と、ある数を\(a\)で割って\(a\)を掛けるともとに戻る、という知識も使います)。式で書くと一見ごちゃごちゃしているように見えますが、 「分数の分母分子に同じ量を掛けて(割っても)も変わらない」という性質を使っているだけですし、分数の約分も同じことです。なお、中学生以上の学力の有る皆さんへの説明では式を使いましたが、小学生に対してなら同じ法則の説明を「ケーキの分割」で行うことも容易です(そういう目で小学校の「教科書」をよく見ると、きちんと説明されていることを再発見するかもしれません(^^))。今回は、それと同じ同じ「分数の法則(約分の法則)」を、無限小量に使っただけで、それが「合成関数の微分法」とか言う大層な名前がつけられている、と思えば良いと思います(^^)

言い換えると「(訳も分からず)入れ替えて掛ける」は「算数(計算法の暗記=単なるしつけ)」で、「分数の分母分子に同じ量を掛けて(割っても)も変わらない」のという法則の利用が「数学(論理の学問)」と言っても良いかもしれません(^^)

--- おまけ(多変数の微分。偏微分と全微分)---

今まで1変数関数\(f(x)\)のグラフの傾き(変化)を扱ってきましたが、変数が増えた場合の変化、ってどう取り扱うのでしょう? 簡単に2変数の場合から紹介します。

今、2つの独立変数(与える=決める変数)、\(x,y\)が決まると、1つの値\(f\)(従属変数)が決まる関数を考えます。前に紹介した記号の使い方で、関数の名前と従属変数の名前は(混乱しない限り)同じ\(f\)という記号を使い、これを\(f=f(x,y)\)と書きましょう。例えば\(f=f(x,y)=x+2y\)みたいな式を思い浮かべても良いし、\(f=f(x,y)=xy\)みたいな式を思い浮かべてもかまいません。このような関係をグラフで表すと、独立変数(決める数)は横軸だけでは表せませんので、「x-y平面(普通は、奥行きと横)」で2つの独立変数を表すことになります。そして、値\(f\)はそれとは垂直な向き(普通は高さ)で表し、グラフは「3次元の中にある曲面」になります(山のような地形をイメージして下さい)。丁度「位置(\(x,y\)」を決めるとその場所の「高さ(\(f\))」が決まる、というイメージです。

そのとき、位置(\(x,y\)を少し変えると、高さはどれだけ変化するか? という問題を定式化することを考えてみます。位置の変化はいろいろな向きに変化できますから、1つの数では表せません。\(x\)の変化\(dx\)と\(y\)の変化\(dy\)の2つの数(無限小量)で表す必要があります。その時、関数の値はどれだけ変化するか? これを\(df\)と書きます。\(f=f(x,y)\)で、\(x\)を\(x+dx\)に、\(y\)を\(y+dy\)に変化させたときの\(f\)の変化量を\(df\)とするのだから、 \[ df=df(x,y)=f(x+dx,y+dy)-f(x,y) \] ここで、途中に、「\(x\)だけ変化させたときの、\(f\)の値\(f(x+dx,y) \)を、引いて、足す(つまり何もしないのと同じ))」と、 \[ df=f(x+dx,y+dy)-f(x+dx,y)+f(x+dx,y)-f(x,y)\\ = \frac{f(x+dx,y+dy)-f(x+dx,y)}{dy}dy+\frac{f(x+dx,y)-f(x,y)}{dx}dx \] となります。ここで、2番めの項の分数の部分に注目して下さい。ちょうど、関数を\(x\)だけの1変数関数(\(y\)は無視あるいは変化させないので定数のように扱う)時の「微分」の式と同じですね。 \[ \frac{f(x+dx,y)-f(x,y)}{dx} \] 微分の定義式と同じですが、分子は\(df\)ではありません。今は、\(df\)は、別の意味\(df=f(x+dx,y+dy)-f(x,y)\)として、既に使っています。そこで、記号をちょっと変えて、次のように書きます。 \[ \frac{f(x+dx,y)-f(x,y)}{dx}=\frac{\partial f(x,y)}{\partial x } \] \(\partial\)の記号は「まあるいディー(raund d)」と呼ばれ、このように「多変数関数でも、1変数だけに注目して、1変数でだけ微分する」演算を「偏微分」と言います。記号は変わりますが、基本的に1変数の微分と同じですから、1変数のときと同じように計算できます。同様にyだけで微分する偏微分は、 \[ \frac{f(x,y+dy)-f(x,y)}{dy}=\frac{\partial f(x,y)}{\partial y } \] と書きます。すると、先程の\(f\)の変化の式は、 \[ df= \frac{f(x+dx,y+dy)-f(x+dx,y)}{dy}dy+\frac{f(x+dx,y)-f(x,y)}{dx}dx\\ =\frac{\partial f(x,y+dy)}{\partial y }dy+\frac{\partial f(x,y)}{\partial x }dx \] となります。なお\(dy\)が小さいときには、 \[ \frac{\partial f(x,y+dy)}{\partial y } =\frac{\partial f(x,y)}{\partial y } \] となるので(疑問に思う方がいれば、証明を紹介しますが...とりあえず証明は省略します)、結局、 \[df= f(x+dx,y+dy)-f(x,y) =\frac{\partial f(x,y)}{\partial y }dy+\frac{\partial f(x,y)}{\partial x }dx\\ ∴ df=\frac{\partial f(x,y)}{\partial x }dx+\frac{\partial f(x,y)}{\partial y }dy \]

となります。このとき「\(f\)の変化量\(df=f(x+dx,y+dy)-f(x,y)\)を、全微分」と呼びます。このように、2変数関数の変化の様子は「1つの割り算(傾き)」では表せません。

このような記号を知った上で、1変数の場合にも「あえて」偏微分の記号を使って今までの記号を整理すると、 \[ f'(x)=\frac{\partial f(x)}{\partial x}=\frac{f(x+dx)-f(x)}{dx}\\ df=\frac{\partial f(x)}{\partial x}dx\\ ∴ \frac{df}{dx}=\frac{\partial f(x)}{\partial x} \] とも書けます。1変数のときには「全微分」「偏微分」は区別なく同じもので、2変数以上になったときに「変化量」としての全微分と「1変数だけで微分した式」としての偏微分が現れます。
...で、.... 1変数の時も多変数と同じように理解し、「全微分」の意味で、変化量\(df\)自体を単に「微分」と呼ぶ場合(流儀)と、\(dx\)で割ったものを偏微分の意味で単に「微分」と呼ぶ場合(流儀)があります(^^;