8. 円の面積、球の表面積、球の体積

前回の続きとして、今回は、球の表面積と、球の体積を求めます。


8-1. 前回の復習:基本事項(直径と円周の長さ、円周率の定義、弧度法、円弧の長さ)

1) 円周の長さと円の直径の比率は円の大きさにかかわらず一定です(相似形)。その比率を円周率と呼び、\( \pi \)と書きます。

2) 角度は、半径1の円(単位円と呼ぶ)の円周の長さで表現できます。この角度の表現方法を弧度法とよび、[rad](ラジアン)という単位で記載します。以後特に断らずに、角度は全てradで表します。なお一周(360°)は\( 2 \pi \)[rad]となります。

3) 上記の性質より、半径 \(r\)、角度\( \theta \)の円弧の長さは、\(r \theta \)となります。また、円周の長さは一周=\(2 \pi\)[rad]なので、\(2 \pi r \) となります。


あと、球の話に進むとき、正弦(sin)余弦(cos)の定義が必要になりますが、必要があれば、出てきたところで補足説明をします(単位円を用いた、高校流の理解で十分です。対面授業では、念のため一応その復習も入れます)。


8-2. 円の面積

円を小さな図形に分割し、小さな図形の面積を無限に加えて、円の面積を求めます。小さな図形に分割する方法は、ちょうど「スライスやみじん切り」するような感覚でイメージすると良いと思います。みじん切りの切り方は、何種類もありますが、どの方法で切っても、全部寄せ集めれば、元に戻ります。

1つの方法は、まず1方向(仮に\(x\) 方向に)スライスしていきます。その幅を\(dx\)と置くと、スライスされた円の各部分は様々な長さになります。原点を中心とした半径\(R\)の円は、\( x^2+y^2=R^2 \)ですから、\(y=±\sqrt{R^2-x^2 } \) となり、スライスの長さは\(2\sqrt{R^2-x^2 } \)となります。これを\(x=-R~R\)の範囲で加えればよいので、\( \displaystyle \int_{-R}^{R}{2\sqrt{R^2-x^2 } dx}\)を計算すれば答えは出ます(ということで、対面授業では、ついでに前回尻切れトンボになっていた、wxMaximaを使った具体的な、この積分計算も、紹介・体験していただこうと思っています。答えは簡単に出ます)。なお.... 手で計算する場合には、この関数の積分の計算はちょっとした技巧(三角関数を利用した置換積分)が必要になります。理系大学1年生用の微積分学の教科書参考書などには、この計算方法が紹介されている場合が多いですので、一応紹介しますが、面倒なのでこの方法は理解しなくてもよいです(^^;(後で簡単な解法も紹介しますので)

\[ \int_{-R}^{R} 2 \sqrt{R^2-x^2}dx\] ここで、\(x = R \sin(u)\) とおきます。逆に言えば\(u=\sin^{-1} \frac{x}{R} \) と置くと(置換積分)、区間\(x=-R~R\)は、区間\(u=-\frac{\pi}{2} ~ \frac{\pi}{2} \)となり、また、sin関数の微分の公式より\( \displaystyle \frac{dx}{du}=R\cos(u)\)なので、\(dx= R \cos(u) du\)ですから、これらを与式に代入すると、、 \[ 2\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} \sqrt{R^2-R^2 \sin^2(u)} R\cos(u) du\\ =2\int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} R \sqrt{1-\sin^2(u)} R\cos(u) du\\ =2R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} \sqrt{1-\sin^2(u)} \cos(u) du\\ =2R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} \sqrt{\cos^2(u)} \cos(u) du\\ =2R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} \cos(u)\cos(u) du\\ =2R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^\frac{\pi}{2} \cos^2(u) du\\ \] ここで、三角関数の加法定理\( \cos(a+b)=\cos(a)\cos(b)-\sin(a)\sin(b) \)を思い出し、\(a,b\)が共に\(u\)の時には、\(\cos (2u) = \cos^2 (u) - \sin^2 (u) \)、また\( \sin^2 (u) = 1-\cos^2 (u)\)なので、\( \cos (2u) = 2 \cos(u)-1 \)、つまり\( \cos^2(u) =\frac{1}{2} \{ 1+\cos(2x) \} \)なので(つまり半角の公式(^^;)、これを代入すると、 \[ = 2 R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \frac{1}{2}\{1+\cos(2u)\} du \\ = R^2 \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \{1+\cos(2u)\} du \\ = R^2 \{ \pi + \int_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \cos(2u) du \} \\ = R^2 \{ \pi + [\frac{1}{2} \sin(2u) ]_{-\frac{\pi}{2}}^{\frac{\pi}{2}} \} \\ = R^2 \{ \pi +0-0\} \\ = \pi R^2 \] この方法は、考え方は単純ですが、計算が(置換積分法と三角関数の半角の公式を使い)面倒ですね(^^;;


そこで、ここでは、切り方をちょっと(工夫して)変えてみましょう。「バームクーヘン」をイメージしてください。円を、無限に薄い皮が無限に積み重なったバームクーヘンと考え、まず1枚ずつの皮(を上から見た)の各面積を求め、それを無限に足し合わせて、円の面積を求めてみます。

半径\(r\)のバームクーヘンの皮の長さは \(2\pi r\) になります。皮の厚さを\(dr\)とおきます(無限小の厚さ)。すると、1枚の円周形の皮の(上から見た)面積は、\(2 \pi r dr\)になります。このバームクーヘンの皮を、原点から半径\(R\)まで、加えれば、半径\(R\)の円の面積になるはずです。式で書くと\(\displaystyle \int_{0}^{R} {2 \pi r dr}\) となります。これは....簡単に積分でき、 \( \pi R^2 \) となります。

つまり半径\(R\)の円の面積は\( \pi R^2 \) となります。分け方(切り方)を変えるだけで、計算はとても簡単になりますね(^^)

なお対面授業では、もう一つ、小学校で教えている「はず」の方法も簡単に紹介します。ピザパイを半分に切ってからさらに扇型に無限に細かく分割して、それを再度組み合わせ、縦\(R\)横\(\pi R\)の長方形(面積\(\pi R^2\))にする方法です。今の皆さんなら、この小学校で教える「はず」の方法も、実は「定積分」の計算だと理解できると思います。そして、分け方(切り方)を工夫すると、その定積分(足し算)の計算は、小学生でもできる程度、簡単に行うこともできます。

なお、最初に紹介した「置換積分の置き方」ですが、むしろこのような「円の面積を求める計算」の知見に基づき、\(x\)を、何か角度で表したら(たとえば\(x=\cos(\theta)\)とか)積分が簡単になるかもしれない... という感覚で試行錯誤によって見つけ出されます。すると円の面積の問題とは無関係な計算問題でも、「\(\sqrt{1-x^2}\)」が入っている場合には、試しに\(x=\cos(u) \)などと(試行錯誤の1つとして)おいてみる、という「定石」になっていきます。でなきゃいきなり三角関数で置いてみるなんて、気が付くわけないですよね。ですから、円の面積を求めるために、最初に紹介した方法で、(いきなり)置換積分で解く、というは、邪道じゃないかとも思っています(^^;




8-3. 球の表面積

公式は中学校で教わっていると思いますが、「なぜそうなるのか?」は、多分教わっていないと思います。そういうことに「疑問」を持つことが、学問(勉強)のはじまりです。そこで、同じように、今度は「球の表面積」を求めてみます。これは「リンゴの皮むき(日向夏の剥き方や、こけしの頭の作り方?)」に近いイメージで計算しましょう。立体図形でのイメージが必要となるため、対面授業にて、イメージと具体的な計算方法を紹介します。リンゴの皮むきとの違いは「1周ずつ、ずらさずに帯を切り取る」ことです。上から測った角度を\( \theta\)とし、その微小の変化を\(d \theta \)と書くと、切り取ったリンゴの皮の帯の幅が( \(R d\theta \) )、1周切り取ったリンゴの皮の長さは(\(  2 \pi R \sin \theta \))になります。ですから、剥いたリンゴの皮の面積は、幅×長さだから、\(2 \pi R \sin \theta R d\theta = 2 \pi R^2 \sin \theta d \theta  \)になります。これを一番上から下まで( \( \theta=0~\pi \) )加えればよいから、\[ \int_0^{\pi} 2 \pi R^2 \sin \theta d\theta \\= 2\pi R^2 ( -\cos(\pi) - -\cos(0) )\\ = 2\pi R^2 2\\ = 4 \pi R^2 \]となります。


8-4. 球の体積

これも、公式は中学校で教わりますが、理由(導出)は教わっていないと思います。そこで今度は「玉ねぎの皮むき(の逆)」のイメージで、厚さ\(dr\)の皮の体積を、中心から半径\(R\)まで加えていきます。

半径\(r\)の球殻(1枚ずつの玉ねぎの皮)の体積は、球殻の面積×球殻の厚さであり、球殻の面積(=球の表面積)は\(4\pi r^2\)で、厚さは\(dr\)だから、球殻の体積は\(4\pi r^2 dr\)で、これを中心\(r=0\)から、一番外側\(r=R\)まで加えればよいので、 \[ \int_0^R 4\pi r^2 dr = \frac{4}{3}\pi R^3  \] となります。これが、半径\(R\)の球の体積になります


言葉と式だけだと分かりにくいですね(^^; 対面授業では、空間的なイメージを作りながら、説明します。


ポイントは「定積分とは、無限に細かく分けたものの足し算」と捉えることで、そのようにとらえることにより、デカルト座標(\(x,y\)座標)に拘らず、「柔軟な考え方(切り方)」で式を立てられ、問題の対称性をうまく利用した切り方をすることにより、計算を飛躍的に簡略化して、見通しやすく簡単に答えを求めることができます。なお、古代ギリシャ時代、まだ微分積分学の基本定理が発見されていなかった頃に、アルキメデスは、この無限に沢山の足し算に相当する計算を、図形の性質のみを使って巧妙に行いました。結構厄介ですので、興味のある人は、「アルキメデス 球の体積」「アルキメデス 球の表面積」等のキーワードでWeb検索してみると面白いかも。また逆に、高校の数IIIなどに出てくる、曲線の長さを求める公式や回転体の体積を求める公式や、表面積を求める積分の公式等から出発して、置換積分を駆使して求めてみるのも面白いかも(^^; さらに、全て直交座標\((x,y,z)\)でみじん切りする、というのも(積分範囲に関数が含まれる3重の積分になりますから)... 計算練習の目的以外全く無意味な、ややこしいだけの解法ですが、置換積分のスパルタ式練習法のつもりなら...(^^;;


訳もわからず公式を「信じて(洗脳されて?)」覚えて使うのが算数(宗教?)で、そのような公式で求められることを理解する(導出する)のが、論理の学問である「数学」です。

アルキメデスとスパルタが出てきましたので.... ついでに、古代ギリシャ時代の話を(^^; このような(球の体積や球の表面積の)問題を解いたアルキメデスが生まれ、住んでいた国(シラクサ)はスパルタと共に、ローマ軍と戦争状態にありました。ある日ローマ軍の兵士が家に攻めこんできたときも、アルキメデスは地面に円を描いて円に関する研究に没頭していました。ローマ軍の兵士が彼に近づいて来た時、アルキメデスは「私の円を踏むな!」とその兵士に怒鳴り、その直後、注意されて怒った兵士により切り殺され、一生を終えました。なお、ローマ軍の将軍は「(数学の大天才であり、数多くの発明品も生み出した)アルキメデスには一切危害を加えるな! と厳重に命じたのに、なんということを!!」と、その兵士の軽率な行動に激怒したそうです。

では、今日は、このへんで終わり、次回から「関数を多項式で表す」話に進みます。指数関数や三角関数の話も、そこで(高い見地から)扱っていくことにします。