9. テイラー展開の考え方(テイラー展開とは?)

高校的な内容は前回までで終わりにして、本日から新しい内容(世界?)に進みましょう。数回に分けて、「全ての関数を、べき級数の形で表現する」数学を紹介します。べきとは\(x^n\)のことであり、べきの和(無限級数:\( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n =a_0 + a_1 x+ a_2x^2+ ...\) の型で、全ての関数を表していこう(定義していこう)という考え方です。もしこれが可能なら、全ての関数の微積分は、\(\frac{d}{dx}x^n=n x^{n-1}\)、だけで全部できることになります... と言うか、全ての関数の定義域を(掛け算と足し算が定義されていれば計算可能なので)、複素数に拡張することが可能になります。例えば、指数関数とか三角関数でさえ...、 と、いきなり言ってもイメージつかめないと思いますので、数回に分けて、順番に進めていきましょう。


9.1 多項式の微分

まず、多項式を微分することを考えていきます。

\[ f(x)= a_0 + a_1 x +a_2 x^2 + a_3 x^3+a_4x^4+ ... + a_k x^k + ..... = \sum_{k=0}^{\infty} a_k  x^k \]

まず、この多項式の変数\(x\)に0を代入します。すると、

\[ f(0)= a_0 + a_1 0 +a_2 0^2 + a_3 0^3+a_4 0^4+ ... + a_k 0^k + ..... = \sum_{k=0}^{\infty} a_k  0^k =a_0 \]

つまり、多項式の0次の項(定数校)の係数\(a_0\)が得れます。


では次に、\( f(x) \)を \( x \) で微分します。

\[ f'(x)=  a_1  +a_2 2 x + a_3 3 x^2+a_4 4 x^3+ ... + a_k k x^{k-1} + ..... = \sum_{k=1}^{\infty} a_k k x^{k-1} \]

この、微分した関数の変数\(x\)に0を代入します。

\[ f'(0)=  a_1  +a_2 2 \cdot 0 + a_3 3 \cdot 0^2+a_4 4 \cdot 0^3+ ... + a_k k 0^{k-1} + ..... = \sum_{k=1}^{\infty} a_k k 0^{k-1}  = a_1\]

つまり、1回微分して\(x=0\) を代入すると、\(a_1\)が得られます。


では次に、\( f'(x) \)を \( x \) で微分します(元の関数の2階微分)。

\[ f'’(x)=   a_2 2  + a_3 3 \cdot 2 x+a_4 4\cdot 3 x^2+ ... + a_k k\cdot (k-1) x^{k-2} + ..... = \sum_{k=2}^{\infty} a_k k(k-1) x^{k-2} \]

この、微分した関数の変数\(x\)に0を代入します。

\[ f'’(0)=    a_2 2 +a_3 3 \cdot 2 x+a_4 4\cdot 3 x^2+ ... + a_k k\cdot (k-1) x^{k-2} + ..... = \sum_{k=2}^{\infty} a_k k(k-1) 0^{k-2} = a_2 2\]

つまり、2回微分して\(x=0\) を代入すると、\(2 a_2\)が得られます。

これを、\( n \) 回続けます。ダッシュを\(n\)個つけるのは書きにくいのでこれを \( f^{(n)}(x)) \) と書くことにします。すると、

\[ f^{(n)}(x)=   a_n n\cdot  (n-1) \cdot (n-2) \cdot  ... \cdot 1 + a_{n+1} (n+1) \cdot n \cdot (n-2) \cdot ... \cdot 2 x + ...  = \sum_{k=n}^{\infty} a_k k  !  x^{k-n} \]

なので、

\[ f^{(n)}(0)=   a_n n\cdot  (n-1) \cdot (n-2) \cdot  ... \cdot 1   = \sum_{k=n}^{\infty} a_k k  !  0^{k-n} = a_n n! \]

となります。

つまり多項式の各行の係数 \(a_n\)と、「 \(n\)階微分した関数に0を代入した値\(f^{(n)}(0)\)」の間には、\( f^{(n)}(0) = a_n n! \)書き換えれば、\[ a_n = \frac{ f^{(n)}(0) }{n!}\]の関係がある事が分かります。

つまり、一般に多項式の展開係数は「 \(n\)階微分した関数に0を代入した値\(f^{(n)}(0)\)」で書けますので、

\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]

となります。


9.2 多項式で表現できる関数

すると、ある(何回でも微分可能な)関数が「多項式で表現できる」時、その多項式は、

\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]

で求められることになります。ただし関数 \( f(x) \) が、多項式で表すことが出来ると、分っている場合です。


9.3 何回でも微分可能な関数(解析関数)

ここで、「何回でも微分可能な関数」というのを考えます。微分可能な関数とは連続であり(関数の値の飛びが無く)、「任意の点の傾きか定まっている(=尖っていない)」関数です。もし尖っていると、その点の前後で、傾き(次の微分)が不連続になります。何回でも微分可能な関数の事を、数学用語では「解析関数」とも呼びます。証明は、連続とは... とかの厳密な定義が必要になりますので省略しますが、無限回微分可能な関数の場合、多項式

\[  \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]

は、元の関数に一致することが証明できます。つまり、任意の解析関数を「(無限)多項式で」展開することができます。これを「テイラー展開」と言います。

 なお、関数の定義域全体で「何回でも微分可能な関数」でなくても「ある範囲で、何回でも微分可能な関数」であれば、その範囲内で、この多項式で元の関数を表すこともできます。ただし、関数の原点をずらす必要があるかもしれません。

 関数\(f(x)\)(のグラフ)を\(x\)軸の方向に\(a\)だけずらすには、\(x → x-a \)と置き換え、\(x=0\)を代入する代わりに\(x=a\)を代入すればよいので、

\[ f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(a) }{n!} (x-a) ^n} \]

とも書くことができます。なお、\(a=0\)の時の(最初に紹介した)テイラー展開を、マクローリン展開と呼ぶこともありますが、ここでは、テイラー展開の一種として扱います。



9.4 テイラー展開:まとめ


\( \frac{d^n f(x) }{dx^n} = f^{(n)}(x)\)と書くことにする。関数が特異点を持たないとき(値が飛んだり、グラフが尖ったり、発散したりしないとき)、その関数は、次の無限多項式で(無限に正確に)近似される。

\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \]

これを「テイラー展開」と言います。


9.5 指数関数 \(e^x\) のテイラー展開

 前に指数関数の微分の公式\( \frac{d}{dx} e^x= e^x \)を紹介しましたが、その時は「指数関数とは何か?」の説明としていませんでした。ただし「微分しても変わらない」という特徴を持ちますので、この「微分して変わらない」という性質に注目し、その関数を「テイラー展開の形で」求めてみます。そのような関数を\( exp(x) \) とおきます。この関数n要請する性質は、

1) \(\exp(0) = 1\)

2) \( \frac{d}{dx} \exp(x)= \exp(x) \)

だけです。この関数を「多項式の形で」求めてください、という、一見無茶苦茶なに見える問題です(^^;;


では、求めていきましょう。\( f(x)=\exp(x) \) と置くと、\( f(0)=\exp(0)=1 \)です。また、微分しても変わらないということは、2階微分しても3階微分しても、一般に\(n\)階微分しても変わらないということになるので、\( f^{(n)}(x)=\exp(x) \)になります。すると、\( f^{(n)}(0)=\exp(0)=1 \)ですから、多項式の係数は、ここから全て求められます。

\[ f(x)= \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{f^{(n)}(0) }{n!} x^n} \] \[ =\sum_{n=0}^{\infty} { \frac{1}{n!} x^n} \]\[ = \frac{1}{0!} + \frac{1}{1!}x + \frac{1}{2!} x^2+ \frac{1}{3!} x^3+ ....\]\[ = 1 + x + \frac{1}{2} x^2+ \frac{1}{3 \cdot 2} x^3+ ....\]

となります。

ちなみに、

 \[ \exp(1) = \sum_{n=0}^{\infty} { \frac{1}{n!} } = 1+1+ 1/2 + 1/6 + ..... = 2.71828.... \]

となります。


9.6 指数関数の定義

中学校で、「aをn回掛ける」ということを、\(a^n\)と書く、という形で「指数」が導入されました。しかしこの考え方(定義)だと、nは自然数しか取れません。その後、指数演算の法則(指数法則)を使う前提で、\(n\)は整数(負の値を含む)に拡張され、高校では、同じく指数法則にしたがうという形で\(n\)を有理数にまで拡張しています。しかし、無理数への拡張はこの方法ではできません。つまり\( a^x \) という関数は、高校数学の範囲まででは、完全には定義できず、ごまかしています。

ところで、ここで、1)2) の性質だけから定義した関数 \(\exp(x) \) はどうでしょう? これは単なる多項式の計算(加減乗除の無限回の組み合わせ)ですから、\(x \) は、加減乗除の計算ができるものであれば、自然数でも、整数(負の数)でも、有理数でも、無理数でも構いません。ですから、ここで求めた\( \exp(x) \) 関数 で、指数演算が定義できれば、厳密でかつ意味も分かりやすくなると思いませんか?? これが「関数論」の考え方です。では、ここで求めた\( \exp(x) \)が、それまでに教わってきた指数演算としての\( e^x \)とどのような関係になるのか? 次回、少し詳しく見ていきます。

では、今日は、このへんで終わります。