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高知県立大学は、令和6年度から高知県立大学10年戦略「UoK Vision 2033」をスタートさせました。柱となる3つの戦略の一つ、「地域共生社会を支援する実践的な教育・研究」を進めていくため、地域を支える様々な立場の「人々がつながり合い」、地域に山積する課題を共に乗り越え、地域を再構築(リ・デザイン)するための取り組み=「リ・デザイン プロジェクト」を行っていきます。
昨年度開催した連続講座「地域共生社会を支援する」では、地域共生社会を実現するための重要な取り組みが「社会的処方」であることが示唆されました。「社会的処方」とは、薬で人を健康にするのではなく人と地域のつながりで人を元気にする仕組みです。
そこで本学では、社会的処方の実践と研究成果の地域還元を「リ・デザイン プロジェクト」の中核と位置付け、プロジェクトを発掘・検討・深化させるための様々な意見交換を行う場として「社会的処方研究会」を開催することとしました。
社会的処方研究会の第1回は、2024年5月24日(金曜日)、永国寺キャンパスにて、対面・オンラインのハイブリッド形式で開催しました。行政、NPO法人、高校生、大学生、教職員など約50人の参加がありました。
まず、甲田茂樹学長より、高知県立大学10年戦略(UoK Vision 2033)での社会的処方の位置づけ、特に戦略3「地域共生社会を支援する実践的な教育・研究」について説明がありました。10年前に掲げた「域学共生」という考え方をもとに、今まで学生・教職員が取り組んできたことをブラッシュアップすることが地域共生社会の実現につながること、そして2024年4月、新たに「地域共生学研究機構」を設置して「リ・デザイン プロジェクト」を始めていくことを紹介しました。
続いて、各プロジェクトの担当教員より、プロジェクトの概要について紹介がありました。
矢吹知之 社会福祉学部教授からは、2024年3月から毎月第1土曜日に開催している「土曜の永国寺カフェ(認知症カフェ)」について紹介がありました。認知症になっても自分らしく生きる、備え中心の「新しい認知症観」、そして日常生活の中でリラックスして皆が水平な関係で繰り返し学ぶ「浸込み型の学び」を目指しています。その具体的な方法として、リ・デザイン プロジェクトではアセット(その人が持っている力・可能性)に注目していく「アセットベースド・アプローチ」を提案し、大学だけでなく地域住民、様々な専門職、学生など多様な方々が運営することにより様々な方々が出入りするオープンな場を作っていくこと、さらにはICT等を活用して広げていくことを検討しています。
西梅幸治 社会福祉学部教授からは、高知県心の教育センターと進めている「中・高校生の居場所づくり」について紹介がありました。集団で過ごすことや人と関わることに不安があったり、学校へ行きにくいと感じている中・高校生を対象に、安心して過ごすことのできる場や活動の提供、学びを希望する子どもへの学習支援など、社会的自立に向けた成長を支援することを目的としています。永国寺キャンパスを拠点とし、6月以降に開催していくための準備を進めており、子どもたちと大学生が共に、ある時は支え、ある時は支えられる関係の中で、生きがいや成長を育んでいく場になることを目指しています。
玉利麻紀 社会福祉学部助教からは、障害の有無に関わらず、メンタルヘルスについて学び合える場「リカバリーカレッジ高知」について紹介がありました。高知県立大学と一般社団法人りぐらっぷ高知との連携により実施しており、精神的な困難を抱えるスタッフ・講師と、医療や教育、福祉分野の専門職とが、対等な立場で共にカレッジを企画・運営しています。従来の「支援する側、される側」という枠組みを問い直し、地域における新たな共生のあり方について地域の皆様と共に考え知見を蓄積し、それらの知見を地域に還元していきたいと考えています。本事業は2022年度に文部科学省「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」に採択され、今年で3年目となります。
津野町との地域共生社会の取り組みは大きく2つあります。1つ目は、2023年に実施された「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」を分析し、津野町住民の健康やウェル・ビーイング向上に資する施策の提案と科学的検証を行うことで、健康長寿研究センター教員が中心となって取り組んでいます。2つ目は、150年の歴史を有する津野町高野地区の農村歌舞伎を復活させようと考える津野町や保存会の意向を踏まえ、高知県立大学が中心となり、多面的にサポートする取り組みです。文化学部、地域教育研究センター、総合情報研究センターの教員らが横断的に取り組みを進めています。
健康栄養学部の教員らが中心となって検討しているプロジェクトは「高知県産健康食材の消費拡大啓発行動を利用する地域の健康寿命の延伸と街づくり」です。提案する“ヘルスケアスポット”(みんな食堂・みんな市)では、地域に子ども食堂や料理教室という形で開設するだけでなく、その場で健康相談や食事相談、生活支援、介護予防などさまざまな地域のニーズに対応し誰でも気軽にコミュニケーションができるような場にしたいという想いが込められています。
以上、6つのプロジェクト紹介のあと、甲田学長は、高知県立大学地域共生学研究機構がリ・デザイン プロジェクトの取り組みを科学的に検証することが重要になると考えていること、また社会に向けて取り組みがどれだけ効果的なのか、科学的に検証できるようエビデンスを得ることが非常に大切だと考えているため、社会的処方研究会はプロジェクトの成果を広く学外に向けて発表する機会にしたいと強調しました。
ご参加いただいた方々に心よりお礼申し上げます。
第1回 社会的処方研究会 当日配布資料 (PDFファイル:9.26MB)
社会的処方は大学だけで形作るものではありません。ぜひ社会的処方の取り組みを一緒に進めていきませんか。
社会的処方について学びたい、プロジェクトの内容を知りたい、何かしら大学と連携してみたい、など大歓迎ですので、お気軽にご参加ください。
※第1回 社会的処方研究会の詳細はこちらをご覧ください。