ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 リ・デザイン プロジェクト > 【開催報告】第4回社会的処方研究会(2024年10月4日)

本文

【開催報告】第4回社会的処方研究会(2024年10月4日)

ページID:0034619 更新日:2024年11月21日更新 印刷ページ表示

 高知県立大学は、令和6年度から高知県立大学10年戦略「UoK Vision 2033」をスタートさせました。柱となる3つの戦略の一つ、「地域共生社会を支援する実践的な教育・研究」を進めていくため、地域を支える様々な立場の「人々がつながり合い」、地域に山積する課題を共に乗り越え、地域を再構築(リ・デザイン)するための取り組み=「リ・デザイン プロジェクト」を行っていきます。

 そこで本学では、人と地域のつながりで人を元気にする取り組み「社会的処方」の実践と研究成果の地域還元を「リ・デザイン プロジェクト」の中核と位置付け、プロジェクトを発掘・検討・深化させるための様々な意見交換を行う場として「社会的処方研究会」を開催しています。

第4回 社会的処方研究会(2024年10月4日)

 2024年10月4日(金曜日)、第4回 社会的処方研究会を永国寺キャンパスにて開催しました。ライブ配信も行い、対面・オンライン合わせて約70人の参加がありました。

 高知県立大学と高知県津野町は地域共生社会に向けた連携協定を2024年3月に締結し、津野町住民とその家族のウェル・ビーイング向上に向けた研究活動を実施し、安心して住み続けることができる地域づくりやウェル・ビーイング向上を推進することを目指しています。今回は、地域共生学研究機構長である甲田 茂樹 学長が「高知県津野町『これからの介護保険のための調査』結果の概要」と題し、津野町住民の健康とウェル・ビーイング向上に資する施策の提案と科学的検証結果を報告しました。

講演の様子1 講演の様子2 

 まず、2023年に津野町が実施した「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」について、背景・調査項目・素集計の結果を説明しました。今回の目的は「ニーズ調査に盛り込まれている調査項目も含めて、社会的処方を実行することで住民にどのような影響が出てくるのか」ということです。

 そこで、津野町の地域活動が住民にもたらした効果を検証するため、「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」の二次・三次クロス集計結果を解析しました。日本老年学的評価研究機構は地域活動や人とのつながりを深めることよって医療・介護費用を抑えるといったいくつかの仮説を立てています。その中で今回は「社会参加・就労・スポーツ・趣味・ボランティアへの非参加に比べ、週1~2回参加することで介護費用が6年間で11~12万円低く抑えられる[Saito M et al. (2021) Int J Environ Res Public Health, 18(10):5414]に注目しました。また今年1月に行った高知県立大学連続講座「地域共生社会を支援する」第2回において、近藤尚己氏が週1回以上の地域活動をすることで要介護リスクがどう減るかについての調査結果(東馬場ほか、総合リハビリテーション 2021)を発表し、「8-11種類の活動と健康長寿が関連し、複数の種類の活動をしているほど健康長寿となる傾向が高い」ことが示唆されました。これらのことから以下のような仮説を立て、調査結果の解析を行いました。

第4回社会的処方研究会資料15ページ

 次に、津野町で行われている地域活動と「身体活動・食事・日常生活でできる事」との関連性を示しました。津野町では、ボランティア、趣味やスポーツ関係のグループ、学習・教養サークルのような住民が自発的に行っている自主的地域活動、老人クラブや町内会・自治会のように地域の決まり事や役割・行事に関連した旧来型地域活動、あるいは行政主導で行われている介護予防のための通いの場や津野町セラバンド体操のような地域活動が盛んに行われています。収入のある仕事に従事する住民も多く、地域社会とのつながりを持っている住民が多くいらっしゃいます。これらの地域活動の中で「自主的な地域活動(ボランティア、趣味やスポーツ関係のグループ、学習・教養サークル)、老人クラブや町内会・自治会、収入のある仕事に週1回以上参加すること」と、「からだを動かす・食べる・毎日の生活において健全でかつ支障のない」ということに、統計学的に有意な関連性が認められた項目が多数確認されました。一方で、介護予防のための通いの場の参加頻度と過去1年間で転倒した経験については統計的な有意さは認められず、通いの場だけに頻繁に参加するだけでは転倒リスクはあまり減らないという結果が明らかになりました。また「老研式活動能力指標※1」を用いて活動能力を総合的に評価した津野町のデータでは、「自主的な地域活動や収入のある仕事への参加度合い」については週1回以上の参加に効果がみられるが、介護予防のための通いの場への参加度合いにおいては月1回以上の参加で効果が見られ、月1回以上の活動でよければ他の地域活動にも参加する時間が作れるのではないか、ということが示唆されました。

※1 独)東京都健康長寿医療センター研究所(旧東京都老人総合研究所)が提案した指標で、手段的自立評価(5項目)と知的能動性評価(4項目)、社会的役割評価(4項目)で構成されている。津野町の介護予防・日常生活圏域ニーズ調査では設問4に盛り込まれている。

 これらの調査結果から、津野町には地域活動に「ぜひ参加したい」「ぜひ企画・運営(お世話)したい」という住民が多数いることから、この方々に地域活動への誘い役として活躍していただき、既存・新規の地域活動を活性化して地域の輪を広げていただく働きかけをしてはどうかということを提案しました。また、地域活動への参加は健康状態や幸せの程度(ウェル・ビーイング)についても関連性がありました(ただし、ウェル・ビーイングについては仕事に関連した社会経済的変数を入れてさらなる分析が必要です)。

 最後に津野町で行われた「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」の重要な特徴は(1)悉皆調査である、(2)極めて高い回収率である、(3)住民のIDが確認でき、各種の既存データやこれから企画する調査等との紐づけが可能である、ことが津野町の大きな強みと思われます。以上のことから津野町では住民の健康の維持向上に向けて経年変化を見ることができ、地区住民の医療・福祉・生活などに関連した情報の「見える化」を行っていくことで、今後実施される各種調査、住民の医療費・介護費用、保健・医療・福祉に係る在宅支援サービスの住民ニーズなどの突合を行い、津野町民やその家族の健康やウェル・ビーイングの維持・向上に寄与することができ、信頼性の高い健康情報DXを構築することが可能となると思われます。高知県立大学として今後も津野町と連携しながら、丁寧に研究・分析を行っていく旨の発表がありました。

講演の様子3 講演の様子4

 参加者からは「地域活動への参加が、健康や幸福にもつながることが分かり、勉強になった」「自分の周りの祖父母等の高齢者に活動への参加をうながしていこうと思った」「津野町での研究内容が全体的に分かってとても良かった」「大学の役割について理解することができた。今後の方向性も示されており、興味深かった」などの感想をいただきました。

 当日、配信トラブルにより参加者の皆様には大変なご不便をおかけいたしました。心からお詫び申し上げます。 

オンデマンド配信中​

※当日の配信トラブルにより、一部音声が途切れているところがございます。

 

第4回社会的処方研究会 当日配布資料 (PDFファイル:18.3MB)

※参考資料
介護予防・日常生活圏域ニーズ調査 実施の手引き
令和4年8月 厚生労働省老健局介護保険計画課、認知症施策・地域介護推進課、老人保健課
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000972604.pdf
(29~43ページ:参考資料1 介護予防・日常生活圏域ニーズ調査 調査票(必須項目+オプション項目))

 


 社会的処方は大学だけで形作るものではありません。ぜひ社会的処方の取り組みを一緒に進めていきませんか。
 社会的処方について学びたい、プロジェクトの内容を知りたい、何かしら大学と連携してみたい、など大歓迎ですので、お気軽にご参加ください。

第4回社会的処方研究会の詳細はこちらをご覧ください。
(開催案内のページへ)

第4回社会的処方研究会チラシ

Adobe Reader

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe社が提供するAdobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。(無料)