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2023年4月1日に学長を拝命しました甲田茂樹です。3月末までは独立行政法人労働者健康安全機構の労働安全衛生総合研究所で所長代理を務め、働く人の健康問題について、国の施策を睨みながら取り組んできました。
私の学問的背景は公衆衛生学・社会医学です。医師免許は持っておりますが、臨床現場で医師として勤務するより、地域や職域において疾病の予防対策や健康保持・増進などを追及する仕事をしてきました。その意味では、地域文化の発展・活性化や地域住民を対象としたHealth & Welfare Scienceに取り組んできた高知県立大学には親近感が持てますし、高知県立大学が掲げている理念・使命・基本方針を支持します。
私の学長の任期は4年ですが、就任にあたり所信を簡単に述べたいと思います。
大学を取り巻く現在の環境は厳しい状況にあります。高等教育を提供する大学等は多数設立される一方、子供の数は減少の一途を辿り、私共は大学存立に強い危機意識を抱いております。さらに、コロナ禍での対面教育が困難となる中、IT・デジタル技術を駆使した効果的な教育の在り方が問われるなど、従来の高等教育自体を見直す必要に迫られています。その意味では、本学の強みをアピールし、ここでの学びと成長の優位性や社会に出てからのメリットを広く情報発信していくことが肝要であり、そのためにも教職員が連携していく必要があります。私もその先頭に立つ所存です。
まず、学生の教育についてですが、高知県立大学で提供している様々な教育や実習のプログラムは、地域のニーズを直接肌で感じ、学生に適切なシーズを提案する機会を与えることのできる、実に多彩かつ実践的なものとなっています。さらに、付け加えると、現在のようにIT・デジタル技術が先行するネット社会では、正確な情報リテラシーと公正な情報判断力、高度な情報セキュリティが求められます。従って、学部や大学院での教育を通じて、あらゆる科学的知見・技術に関する公正な情報を入手・理解できる能力を身につけて、卒業後、地域社会で活用できるスキルを獲得することを目指したいと思います。
次に研究と社会貢献についてですが、高知県立大学の強みと研究成果の社会実装におけるDXの促進によって、高知県や県民に貢献する学府を目指したいと思います。深刻な少子高齢化が進行する日本において、とりわけ、高知県は広範な中山間地域を有するため、地域住民の健康と福祉を向上させるサービスを効率的に提供することが課題となります。本学での教育と研究活動を通じて、高知県民の保健・医療・福祉に関する情報のDXに積極的に関与できる人材の育成を図り、高知県民の健康と福祉を向上させるサービスを提供できる研究環境を整備していきたいと思います。そのためにも、高知県・各市町村や民間企業との連携や県内各大学との共同研究なども模索していきます。ひいては、このことで本学の研究能力や地域への社会貢献をブラッシュアップしてくれるだけではなく、高知県立大学発の新たな活動・事業を創出(innovative creation:IC)するものと信じます。今後の高知県立大学の将来を考えるうえで、DXとICは重要なキーワードになるはずです。
高知県立大学は多数の海外協定校とつながりがあり、留学生の受け入れや交換留学生の派遣も活発に行われてきました。また、韓国や中国などのアジアからの私費外国人留学生の受験や入学が多いのも、本学が持つもう一つの強みといえます。志のある若者が自らの国以外で勉強しようという場合、最先端の科学的知見や技術を獲得し、母国に生かしたいと思うのは当然の感情です。幸い、本学での地域文化の発展・活性化とHealth & Welfare Scienceの取り組みは海外でも高く評価されており、結果として、アジアからの留学生の受け入れを通じて国際交流が深まることにつながり、高知県立大学のグローバル化という観点からも大きな魅力となっています。
最後に、大学を取り巻く社会環境は目まぐるしく変化しており、高知県立大学は公立大学としてのミッションを遂行するため、ガバナンス機能を強めていく必要があります。まず、大学人として法規則や各種ガイドライン、社会規範などを遵守すること、大学運営、教育・研究や社会貢献に関わる情報公開を徹底すること、大学に発生しうる危機・災害を想定して予めリスクマネジメントしておくことは当然です。そして、本学にとって重要なステークホルダーである高知県や県民への説明責任が十分に果たされているか、内外の評価に耐えうるものとなっているか、持続可能性・多様性のある社会に対応しているかなど、常に検証する必要があります。本学ではこれまでにIR機能の強化やFD・SDの充実に努めてきましたが、高知県立大学のミッション遂行をさらに確実にしていくためにも、人事や予算、組織の在り方を柔軟に検討し、ガバナンス機能を強化できる環境の整備や基盤の構築に努めていきたいと考えます。